長編1

□21〜42
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「さて…、そろそろ帰ろっか。」

「…そうだな…。」


日はすっかり落ち、この時期のせいか、まだ19時を回った頃だというのに辺りは宵闇に包まれていた。

街灯の光が次々に灯りはじめ、昼とは違った賑わいを見せていた。


「夏菜たちはもう待ってるかなぁ?」

「……たぶん、待ってるかもしれないな…。」

「ま、いっか。邪魔しちゃいけない雰囲気になってるかもしれないし。」

「………。」

どこか楽しそうに云う優紀を見て、智也は足を止めた。


「??どうしたの?智也、」

「………渡したい物がある、いいか?」

「え?あ、うん…。」


智也は自然と優紀の手を引き、駅に向かう前にある小さな公園の中へと入っていく。

時間が時間だからか、遊んでいる子供はおらず、数人の人しか居なかった。

公園の一角にある休憩所のような所にその数人は居て、智也たちの居る公園の入り口付近には誰も居なかった。


「……これ、」

「…?」

ふと、智也が差し出した包みを受け取り、優紀は智也を見た。

「何?改まっちゃって…。」

「…バレンタインの、お礼。」

「あ、あぁ…。ありがと。」

優紀は今日がホワイトデーだったのを思い出し、納得した。

「開けていい?」

「どうぞ。」

「ども。」

優紀は包みをゆっくりと、丁寧に開き、包みの中を見る。

「わぁ…可愛い!!」

優紀の手の中には、銀のイルカが付いたネックレスがあった。

「…これ、水族館で買ったの?」

「あぁ。何も用意できなかったから…。」

「わざわざ良かったのに…。でも、ありがと。」

「…あぁ…。」

優紀の心底嬉しそうな笑顔に、智也は僅かに顔を赤くしていた。

「ホントありがと。大事にする。」

「……貸して。付ける。」

「え、あ、うん…。じゃあお願い…。」

優紀は持っていたネックレスを智也に渡し、背を向ける。
そして、邪魔にならないように髪を押さえた。


「ほら、」

「ん、ありがと。」

智也の合図に、優紀は押さえていた髪から手を離し、再び智也に向き直った。


「どう?似合ってる?」

「…あぁ。」

優紀は無意味なポーズをとってみせる。
智也は少し笑いそうになりながらも、相槌を打った。





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