水色のラヴソング

□二人の先輩
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「……まさか…そんな…。瑞穂先輩が…負けるなんて…。」

審判役をお願いしていた後輩が、ぽつり、とつぶやいた。
瑞穂自身も、どうして負けたのか自分で理解できていなかった。

剣道をするのは初めて、と云っていた夏菜にそう時間もかからずに負けるなんて、自分でも思っていなかった。

夏菜「あなたはとても強いけど、でも、相手を見て判断するのは悪いくせね。
簡単に相手が弱いと判断し、自分の強さを過信しすぎる。
自信過剰もいい加減にしないと、得られるものも得られなくなるよ?」

勝負が終わった後、夏菜はそう告げて、柔らかく微笑んだ。

夏菜「大丈夫、今ので気付けたでしょ?
だから、あなたはもっと強くなれる。
……それから…さっきの部費の件…、カットはしないから安心して。
返事は、ゆっくり考えて答えを出してね。」

瑞穂「はい…。」

試合中の夏菜の圧倒的な威圧感と、的確な言葉が、胸を打った。
夏菜たちが道場から去った後、後輩や同級生、先輩までもが瑞穂を囲み、声をかけてくる。
その言葉は瑞穂を心配する言葉で、瑞穂は自分が少し情けなくなった。

その後、部活に集中できず、ぼんやりしている事が多かった。






寮生である瑞穂が寮の自室に戻り、入浴を済ませて食堂に着いた時、その隅で騒いでいる一年生の姿が見える。
何か嬉しい事でもあったのか、終始嬉しそうな声音で話している二人組。
瑞穂はその二人組をちらり、と一瞥しただけで、食事を摂ろうと食券販売機へと足を向ける。
適当に食券を購入し、注文を済ませて、しばらく待っている間に、隣に誰かが立つ気配を感じた。

「や!瑞穂!今日の夕ご飯のメニューは何にしたの?」

瑞穂「日替わり定食。」

「今日の日替わりは〜、お!エビフライじゃん♪おばちゃーん、あたしもそれで!」

瑞穂「食券買ったの?」

「もち♪」

瑞穂「………。」

ちょうど注文していたものが来た瑞穂はそれを受け取り、さっそくあいている席を探す。
夕食時間が始まったばかりで、まだ少しは席の余裕があるようだ。
適当に席を見繕って座る。

「隣邪魔するよん♪」

瑞穂「どうぞ。」

「ありがと♪」

先ほど声をかけてきた生徒が隣にかける。

「そういえば瑞穂〜、噂で聞いたけど、生徒会に勧誘されたって本当?」

瑞穂「うん。会長と副会長が直々に。」

「うわ!マジだったんだ!!」

瑞穂「………。」

瑞穂の隣に座る彼女は、瑞穂のルームメイトであり、クラスメイトでもある、七海朱莉(ななみあかり)。
新聞部に所属していて、将来はジャーナリストを目指しているとか。

朱莉「それで?瑞穂はどうすんの?生徒会、入るの?」

朱莉は興味津々で、エビフライを銜えながら問いかける。

瑞穂「……迷ってはいる。」

朱莉「まぁ、迷うは迷うよね〜。生徒会ってなんだかんだ言って忙しいもんね。
しかも、仙道先輩が引退したら、瑞穂が主将になるんでしょ?部活と生徒会のかけもちってしんどそう…。」

朱莉は苦虫を噛み潰したような顔をして、次なるエビフライに手を伸ばす。
瑞穂は部活の事や生徒会の事を考えつつも、朱莉に返答をした。

瑞穂「野乃花先輩はいい人だから…私が生徒会に入るって云ったら、別の人を主将にって云うかもしれない。」

朱莉「いや、それはないんじゃない?だって仙道先輩、あんたのこと大好きじゃん。
あんたがずっと剣道やってて、実力もあるってことわかってるんだから、自分の後継者として育ててきてくれたんじゃん?
だからそう簡単にそれを覆すとは思えないけどなぁ…。
むしろ、どっちもやったらいい!って云うんじゃ?」

瑞穂「……」

朱莉「まぁさ、深く考えずにやってみてもいいと思うよ?部活以外にも新しい刺激は必要だと思うし。」

瑞穂「新しい刺激…。」

朱莉「そうそう。あたしたちも二年に上がって、可愛い後輩たちもできた!
今までは仙道先輩の背中を追っかけてきたけど、神無月先輩とか、上杉先輩を追っかけてみるっていうのもいい手だと思うよ?
だってあの二人、生徒会二年目できっと慣れてると思うし。」

瑞穂「……じゃあ、朱莉、一緒に入る?」

朱莉「あたし?あたしは、今のところ満足かな〜?でもあんたは、あの二人から直々にお誘いがあったわけだし、きっと何かを期待してるんだと思うんだよね。
ま、何か手伝う事とかあったら駆けつけるし、安心してよ。」

瑞穂「…わかった。」

朱莉の言葉に少し安心し、瑞穂は生徒会に入る決心をしたのだった。






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