長編1

□第一部
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清々しい朝の空気をいっぱいに吸い込み、淀んだ気分を入れ替える。
昨日まで降り続いていた雨のせいか、空気はひんやりと冷たく、そして、肌に張り付くようだった。

「………雨、止んでたんですね…。」
霧が立ちこめる景色に目を向けて、透き通るような蒼い髪の娘は一人呟く。

「…ライ、」
ふと、娘の背後から柔らかい、ハスキーな声がかかる。
「リム…もう起きたんだ?」
ライ―そう呼ばれた娘は、声の主の名を呼ぶ。

「えぇ。蒸し暑くてね。目が覚めてしまったわ。」
リムリア―そう呼ばれた、ライと同じ顔の娘は額に張り付いた、ライと唯一違うオレンジの髪をかきあげる。
「最近、雨が多いね…。」
ライはそんなリムリアの顔を苦笑しながら見、霜の下りる目の前に広がる森林に視線を移した。

「…あたし達の城が、崩壊し始めてるのかもしれないわね…。」
リムリアは無表情に、雲間から見える薄い月を見上げる。
「あの場所に、私達二人の居場所はない。
私、あの場所に戻るなんて絶対に嫌よ。」
穏やかな笑みが似合うライが、棘のある口調になったのを無言で受け流しながらリムリアは視線をライに戻す。


「そんなの、云われなくても理解してるわ。あなたが本当に彼処を心底嫌っている事は昔からだもの。」
初めてリムリアはその口元に笑みを拵えた。
「…ねぇ…リムリア…。お婆様の言葉、覚えてる?」
先程の強い口調とはうって変わって、優しい口調に戻ったライは昔を懐かしむかのように目を細めた。

「……もちろん、覚えてるわ…。
"地上を護る者には、地上を護る者の強さがある。そして、天上を護る者には、天上を護る者の義務がある。"」
リムリアも記憶を反芻するかのように、言葉を舌に乗せる。

「…私…まだその意味…よく分からないの…。でもね、私達はきっと、地上を護る為に生まれたんじゃないかって思うの。」
ライは嬉しそうに口元を綻ばせ、胸の前で指を絡めた。
「私、本当にあの城を抜け出して来て良かった…。
でなきゃ、リンさんに仕える事もなかった…。こんな充実した生活も送れなかった。」
ライは満足げに笑みを漏らし、部屋の中へと戻る。
その後を、リムリアも無言でついて行く。
「リム、朝食先に食べる?リンさんはまだ起きないと思うし…。」
「……そうね。戴こうかしら。」



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