長編1

□第一部
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夜の気配を打ち消すような朝日が昇ったのは、それから数時間後の事だった。

「…おはようございます、リンさん。」
「あぁ、おはよう。」
生あくびをかみ殺すように答える、銀髪の若い女は、丁寧に淹れられた珈琲をすする。
「今日は、何か召し上がります?」
「…パンを一切れ。」
「マーガリンは?」
「いや、いい。」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
優雅なその肢体は、見る者総てを圧倒する程に美しかった。
細長い白い足を組み替え、珈琲を再びすする。
「……今日も、雨か…。」
雲間から除く、太陽が哀しそうに泣いているように、雨はしとしとと降り続いていた。
「今日の任務、どうなさいます?」
ポットにお湯を注ぎながら、ライは問う。
「…次期にこの雨も止むだろう…。雨が止み次第、見回りに行く。」
「それなら、私が行きますよ。」
汚れた食器を片付けながら、ライは云う。
「いいんだ。久しぶりに、街を見てみたくてな…。大して大きな事件も起きていないだろうが…な。」
銀髪の女―リンは白い顔に澄んだ笑みを浮かべると、差し出されたフランスパンを一切れ、口に運ぶ。
「あの、リンさん?」
ふと、ライは不安定な声で問う。
「連日続く雨…何か原因があるんじゃないですか?世界のバランスが崩れ始めているんじゃ…」
「雨が何日も続くのはそう珍しい事じゃない。
梅雨の時期になれば、一ヶ月近くは雨だ。
その度に心配していたら、身がもたんぞ、ライ。
確かに、この時期に降る雨は珍しいが、それは世界のバランスとは関係ないだろう。」
リンは空になった珈琲カップを置き、不安げに外を見ているライを安心させるよう、優しく云った。
「それに、バランスが崩れたとなれば、ルナから何らからの命令が来るはずだろう?
今日はまだ、特別任務は来ていないぞ?」
「そうですよね…。私の思い違いでした。
それじゃあ、私は食器を片付けて来ます。」
「あぁ。頼む。」

食器を持って、食堂を出て行くライの後ろ姿を見送った後、リンはそっと立ち上がり、中途半端に開けられたカーテンを開ける。



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