長編1

□第一部
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「ライも、薄々は感じているのかもしれんな…。」
リンはため息にも似た息を吐き出すと、カーテンを閉めた。

「風紀(ふうき)、」
ふと、リンは誰も居ない部屋で誰かの名を呼んだ。

「此処に、主。」
リン以外存在しないはずの食堂に、明らかにリンの声とは違う声が響く。
いつの間に現れたのか、リンの傍らには、銀色の毛並みが美しい、大型の狼が行儀よく座っていた。
「ルナからの伝達は?」
「はい、先程話題になっていた連日続く雨の事ですが…
世界のバランスが歪み始めている可能性があるそうです。
各地で、”異能者”による反乱が立て続けに勃発している模様です。」
狼は流暢な人間の言葉で、上司の言葉を主へ報告した。
「”異能者”…。つい三日前も、”異能者”の反乱を鎮圧したばかりだと云うのに…。」
リンは狼の言葉に、若干呆れたような声を漏らした。
「ですが、今回は…”異能者”だけではないようです。」
深刻な声で、狼は語る。
「”異能者”だけではない、とは?」
「はい…。大変申し上げにくいのですが…、”契約者”も、その反乱に加わっている、との報告が入っております。」
「”契約者”だと?」



――



”異能者”とは、神の意思により、特殊な能力を所持する人間の事を指す。
外見は一般の人間と変わらないが、特殊能力―人の心を読めたり、天候を自由自在に操れたり、自らの身体を透明化出来る能力―を持つのが特徴的である。
日常生活では、一般の人間と変わらず何も苦労する事はない。
しかし、その能力に目覚めてしまった―”覚醒”した者は、その時点で、不老になるといわれている。
しかし、未だその謎は解明されておらず、何が原因で不老になるのか発見出来ていない。
仮説ではあるが、”異能者”には一般の人間には存在しない遺伝子が組み込まれている、と云われている。
その謎の遺伝子をミステリオンと称し、そのミステリオンが、不老をもたらしているのではないかとされている。





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