水色のラヴソング

□二人の先輩
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綾瀬川女学園。
レトロな雰囲気を持つこの学園は、有名な私立女子高として名を馳せている。
学園の敷地内に寮も完備されていて、遠方から通う学生が主に利用している。

そんな学園に入学して、二年目の春を迎えた瑞穂は、通いなれた学園へと足を運ぶ。
入学式を先週迎え、新しいクラスにも少しづつ慣れ始めた頃。
早朝の学園内を歩く生徒の数は少ない。
瑞穂は自身の所属する剣道部の朝練に行くために、毎日早朝に登校する。
朝練は強制ではない為、参加する部員はそんなに多くはない。
去年、瑞穂は一年にして副主将を務め、現在でも副主将を務めている。
現主将は三年に進級し、6月に行われる大会で引退となる。
主将を含む三年が引退した後、主将を務めることになっている瑞穂は、その責任感を感じつつ、朝練には毎日参加している。
主将である自分が弱いと、他の部員に示しがつかないし、何より剣道が好きだから、一日の授業以外の時間をほとんど剣道に使っている。


「おはようございます、瑞穂先輩」

道場に着くと、すでに体操着に着替えて準備をしている後輩がいた。
そのほかに、数名の同級生や後輩の姿が見える。

瑞穂「おはよう。早いね。」

「今日は、私がカギ当番だったので。」

瑞穂「そう。ご苦労様」

「ありがとうございます。瑞穂先輩、今日のメニューはどうしますか?」

瑞穂「いつも通り走り込みから。その後、少し打ち合いを。」

「わかりました。じゃあ、みんなに伝えてきます。」

瑞穂「うん、お願い」

瑞穂も更衣室へ向かい、体操着に着替え、運動場へ出て、朝の走り込みを開始した。



――――


全ての授業を終え、教室に残った友だちや、部活へ向かう友だちと別れ、道場に来た瑞穂はまず、更衣室に向かい、着替えを済ませた。
最初に始めるのは、道場内の掃除。
気持ちよく部活を始められるように、瑞穂が剣道を始めてからやっている習慣だった。
床の雑巾がけをしている途中で後輩がちらほらと姿を見せ、手伝ってもらいながら終わらせる。
全員が揃ったところで、練習を始める。

練習を始めてから30分が経とうとしている頃、入口が騒がしくなり始めた。


「頼も〜〜〜〜ッ!!」


入口で、誰かが叫んでいるのが耳に入り、不審に思いつつそちらへ目を向けると、学園で最も有名な二人組がいた。
後輩や同級生たちは興奮したような黄色い声を上げ、近くに居た後輩に二人組は話しかけていた。
その時、自分の名前が出た事に驚きながらも、困っている後輩をそのまま放置することはできない。
自分に何か用があるのだろう。
ならば、こっちから名乗り出た方がよさそうだと考えた瑞穂は、その後輩を背後に庇うようにしながら、答えた。

瑞穂「香月は私ですけど。」

後輩に練習に戻るように目くばせをして、二人組に向き直る。

「こんにちは。私、生徒会副会長の、神無月夏菜です。
こっちが、会長の上杉優紀。
今日此処に来たのは、あなたにお話があって。
五分くらいでいいんだけど、お時間頂けますか?」

生徒会の会長と副会長が自分に何の用だろう?
少し不審に思いながらも、瑞穂は中へ招き入れる。

瑞穂「いいですよ。こちらへどうぞ。」


夏菜「ありがとう。」

去年、道場の隣に客室を増設の申請を先輩がしていて、去年の末にその許可が下り、春休み中に工事が入った。
まだあまり使われていない客室に二人を通し、席を勧める。
備え付けのポットから急須にお湯を入れ、二つの湯飲みを準備してお茶を淹れる。
二人の前に湯飲みを置き、二人の前のソファに自分も腰を下ろす。

瑞穂「それで…、話とは?」

あまり時間を取ってしまったら、部活に支障が出かねない。
この二人も確か、部活に入っていた気がするし…。

夏菜「薄々勘づいてると思うけど…、今回こちらに来たのは、あなたを生徒会メンバーに加わって欲しくて。
もちろん、これは強制ではないし、断るのも、受けてくれるのも、あなたの判断に任せます。
あなたも忙しい身だから、ゆっくり考えて答えを出して欲しい。
………話は、これだけです。
返事が決まったら、生徒会室へ来るか…、生徒会ボックスに答えを書いて入れてね。」

生徒会に入って欲しい?何故突然?
それに、どうして自分だったのだろう?他に適任な生徒がたくさんいるだろうに…。
夏菜の考えている事が読めず、それと純粋に、自分を選らんだ理由を知りたいと思った。
少しだけ、試してみたいと思った。

瑞穂「待って下さい。」

立ち上がろうとした夏菜を瑞穂は呼び止めた。

瑞穂「私と、勝負して下さい。」

夏菜・優紀「「勝負?」」

瑞穂「生徒会に入ってもいいです。だけど、条件があります。」

夏菜「…条件?それは?…生徒会に入るのは、あなたの判断に任せると云ったよ?
強制ではないってね。」

瑞穂「ええ。……あたしが勝ったら、剣道部の部費予算を上げて下さい。
人数に、道具の数が追い付いていなくて、毎月の部費だけでは十分には賄えないんです。
部費の件をどうにかしたいので。」

部費の件は本当の話だった。けど、別にやりくりできないわけではない。
実際、瑞穂の実家は道場を経営しているし、剣道で必要な物も多少はそろっている。
そこから借りても問題はないのだ。
それでも、この話を出したのは、真剣だという事を知ってもらう為でもあった。

夏菜「わかった。でもやっぱり、生徒会に入るのはあなたの意志。
負けたら、部費10%のカット。勝ったら、20%アップ。
それでどう?」

夏菜は不敵な笑みを浮かべてそう云う。

瑞穂「はい、それでいいです。」

瑞穂はもちろん、断ることをしなかった。





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