長編1

□White Message
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第一話 土砂降りの雨



憂鬱だった。


「……ねぇ…。」
机にだらしなく頬杖を付きながら、黎は目の前に座り、本を読んでいる友人に声をかける。
「…何?」
声をかけられたにも関わらず、本から目線をあげようとしない亜結は気の無い返事を寄越す。
「なんでさ、雨なんてあるんだろうね。」
黎も、慣れた態度で雨の降り続く黒い空を見上げながら呟く。
「必要だからでしょ。」
ため息混じりに、亜結は答えた。
「あたしには、必要ないんだけど。」
「黎に必要なくても、この世界には必要なんでしょ。」
「……雨って嫌い。」
「知ってる。」
「どうして、こんなにも憂鬱になる要素が雨には含まれてるんだろうね。」
「…黎はただ単に雨が嫌いなだけでしょ。見方を変えたら、雨だって好きになれるよ。」
そっけなく答える亜結は、やっと、本から目線を外へと動かした。
「あたしには、そんなの理解出来ない。」
「黎は頭が硬いから。もっと柔軟にしないと。」
「あんたは柔らかすぎんのよ。どうやったらそんなにまで無関心で居られるのよ。
ってか、もっと、本以外に興味を持ったら?
将来小説家目指してるかなんだか知らないけどさ。」
ふてくされたようにごちる黎は、横目で亜結を視界に捉えた。
「………。」
「おしゃれも、男にも、興味ないなんて、今時の乙女じゃないよ?
あんた、顔はいいんだから彼氏の一人や二人、あたしに紹介してみなさいよ。」
「…別に欲しいと思った事なんてない。人の事よりも、自分の事を考えたら?
黎は年下の女の子たちに人気あるんだから、彼女の一人や二人居てもおかしくないと思うよ。」
亜結はあっさりとその話題を流そうとした。

「ちょっと待って。今の発言、撤回しない?
それじゃあたしが女の子好きって事になるじゃん。」
さも心外だと云わんばかりに講義する黎。
「本当の事でしょ。最初は僕も黎に惹かれてた、かもしれないし。」
亜結は平然とした顔で、さらりと云う。
「云っておくけど、僕は最初、黎は男の人と思ったんだからね。
だから、」
「わかった、わかった。ちゃんとわかってるよ。」
「……。」
何が理解出来ているのか、慣れた手つきで亜結の肩を叩く黎。
「…放課後になったけど、部活は行かないの?」
話題をそらすように、亜結は時計に目をやりながら云う。
空はここ数週間雨が続きっぱなしで、常に薄暗い。
朝であろうと、夜であろうと、薄暗さはそう変わらない。

「あ、ホントだ。今日はコーチに呼ばれてたから早めに行かなきゃいけなかったんだ!」
「なら、ちょっと急いだ方がいいんじゃない?さっき、体育館に行くの見えたよ。」
彼女達の居る教室、東校舎と職員室のある西校舎は隣同士だった。
東と西、二つの校舎の後ろには、大きな体育館がある。
二つの校舎は室内の渡り廊下で繋がれていて、西校舎から直接体育館へ行く道はなく、屋根の備え付けられた渡り廊下が東校舎にある。
雨の日にあえてその中を通って体育館まで行く者は居ない。
故に、必然的に西校舎から体育館に行くには、東校舎を横断し行くのが雨の日には普通だ。

「マジかい!じゃ、あたし行くよ!!亜結は家が遠いんだから早く帰んなよ?」
急いで荷物を纏めた黎は、既に教室を出ようとしていた。
「僕の心配はいいから、さっさと行った方がいいよ。」
「おぅ!じゃ、また明日ね。」
騒がしく、黎はその場を走り去った。




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