長編1

□夢に堕ちた蝶
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第一話  夢渡り


事の始まりは、遥か昔。
神の存在を信じ、神を崇め、慕った時代。
神に魅了された子、通称『神ノ子』と崇められる、夏木蘭は、普通の人間にはない、異種能力を生まれつき持っていた。
その異種能力は、夢を渡る力。
人の夢に自由自在に出入りでき、その者の思考や性格などを見て、知ることができる。
それだけではなく、その者を支配し、自由に操ることも可能だと云われている。
それ故に、人々は彼女を恐れ、近づこうとはしなかった。


「人間というものは、皆そうだ。今に始まったことじゃない。」

そう云って偉そうに椅子に胡坐をかいて座る、色素の薄い黒髪の女、夏木蘭は紫煙を吐き出した。

「でもよ、『神ノ子』とか言い出したのも人間だろう?矛盾してねぇか?」

夏木蘭の向かい側み座る、蜂蜜色の神を指先で弄びながら、男、神森慎二は云う。

「人間という生き物は、矛盾だらけだよ。神を崇めるが、一方では神を蔑ろにする。
時に神を恨んだり、時に神を求めたり…。結局は、自分達のいいようにしか『神』を利用していただえけに過ぎない。お前もそうだろう?慎二。」

蘭は煙管に火をつけ、再び紫煙を肺に送り込む。

「俺にとって神は、死神しかいねぇよ。」
「ははっ、それは傑作だな。」

蘭は慎二の言葉に笑い、紫煙を吐き出した。

「まぁ、今の私達には必要のない追求だがな。」
「今日も相変わらず、依頼はねぇし。」

退屈そうに大きく伸びをして云う慎二。

「なぁ、慎二。お前はフラフラしてないでちゃんと仕事しろ。それで、さっさと嫁でも貰え。そうすれば、こんなムダな時間を過ごす事もないだろう。」
「それはお前にも云えるだろ?こんな仕事してないで、嫁に行けよ。」
「この仕事は、私にしかできない仕事なんだ。それに、嫁になんか行ってやるか。私は誰かのモノになるつもりはない。残念だったな。」

そう云って口角を吊り上げて笑う蘭は、ゆっくりと目を細めた。







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