中編

□クランベリーチョコレート
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まだ小学四年の春。
始まりは新しい学年、クラスが始まって、1ヶ月が過ぎた頃。
彼女は初めて同じクラスになり、たまたま隣の席になった。
隣の席だからと言って、特別仲がよかったわけではない。
彼女は成績優秀で、運動神経抜群、容姿端麗と何かと目立つし高嶺の花のような存在だった。

あまり他人と接しているところを見かけたことがない。
もちろん、友達が居ないわけではないし、孤独だという風にも見えない。
ごく親しい友人何人かがいるだけで、それ以外のクラスメートに自分から関わることをしなかった。

ただ、時々彼女は回りに気を遣いすぎているようにも見えた。
話しかけられたことは何度もあるが、それらはすべて、他人からの要請であり、

「小野くん、」

「ん?」

「友里ちゃんが呼んでるよ。委員会の話とかって。」

「わかった」

というような、短すぎる会話しかない。
頼み事をやれやすいタイプなのか、それとも頼まれたら断れないタイプなのかわからない。
そういった会話しかしないから、彼女がどんな性格で、どんな考えを持っているか、なんて知るよしもなかった。

それから、席替えがあって彼女とは離れたが、クラスは同じなので毎日顔を合わせる。
だが、会話をしても挨拶程度。
しかし、何故だか彼女のことが気になるようになっていた。
あまり感情を顔に出さないタイプなのか、子供というより大人のような安心感を漂わせていたのが新鮮だったのかもしれない。
今まで通りに大した会話もせずに数ヶ月がたち、夏休みに入った。
子供にとって夏休みは、楽しいばかりではない。
大量の宿題と格闘しなければならないからだ。
もちろん、計画的にやるヤツもいれば、最終日なんかに慌てて片付けるヤツもいる。
どちらかというと俺は後者の方で、宿題なんて大キライだった。
そんな夏休みを謳歌している時に、彼女の意外な一面を見る。


夏休みも中盤になった8月の始め。
商店街の一角にある雑貨店に入っていく彼女の姿を見つけて、自然とその後を追った。
彼女はぬいぐるみが陳列された場所に佇み、真剣な表情でぬいぐるみたちと対峙していた。
そんな表情は今まで見たことなかったし、何故か引き込まれた。
しばらくした後、両手のひらに乗るほどのクマのぬいぐるみを手に取り、レジへ。
店員のおばちゃんからクマのぬいぐるみを受け取った時の彼女の心底嬉しそうな笑顔を見た瞬間、時間が止まったような気がした。

あまり感情を顔に出さない彼女の満面の笑顔に、一瞬にして心を奪われ、俺は恋に落ちていた。





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