中編

□青葉の夢
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第1話  始まりの声


春が巡り、暑い夏がやってくる。
体育館では、部活に精を出す生徒たちの声が聞こえる。
この朝の空気が好きだった。
早く起きた朝は、決まって早く登校して、朝の空気を思いっきり吸い込みながら、校内を探索するのが私の中での恒例だった。

高校生二年の春。
部活に入っていない私は、朝早くに学校に来る理由もなければ、用もない。
だけど来てしまうのは、朝の学校という独特の雰囲気や空気感に魅力を感じているからだろう。
大した理由も考えたことがないから、はっきりとは言えない。
昔から学校がわりと好きで、あまり行かない別学年の教室を見て回ったりする。
これができるのは、やっぱり、人気の少ない、始業前の時間。
体育館の裏に行くと、運動系の部活の部室がズラリ、と並んでいる。
それぞれの部室の隣には、道具類を置く物置きも用意されていて、至れり尽くせりな気もする。
部活に所属しているだけで、学校での居場所が増えるのは、少し羨ましい。
だからといって、運動系の部活に入ろうと思ったこともなければ、文化系の部活に入ろうと思ったこともない。
興味をそそられるものがなかったから、入らない選択をしただけ。

「後藤、か?」

ふと、名前を呼ぶ声がする。

「やっぱり。何してんだ?こんなところで。しかもこんな朝っぱらから。」

振り返れば、見知った顔がある。
中学から一緒のクラスの、朝比奈友紀くんだった。
朝比奈くんは、バスケ部の次期部長らしい。期待のエースとか。

「早起きしたから、校内の探検に来た。」

「物好きだな。」

「まぁね。朝比奈くんは?休憩?」

「そんなとこ。最後に片付けて、ミーティングやったら終わり。」

「そっか。頑張って。」

「おぅ。」

仲がいいか?と聞かれたら、きっとお互い微妙。って答えると思うくらい、ただのクラスメート。
会えば挨拶や話はするけど、特別仲がいいわけでもないし、悪くもない。
中学から同じたから、多少の付き合いはあるくらいだった。
そんな彼と短い会話を交わして、彼は体育館へ、私は校舎内へと向かう。
体育館を離れれば、大きなグラウンドが見え、野球部やサッカー部が走り回っているのを横目に、特別教室棟へ。
特別教室棟には、文化系の部活の部室があったり、多目的ホールがあったりする。
あまりこの教室棟には足を踏み入れないから、じっくり探検できるのは嬉しい。

一階の奥に、ひっそりと美術室がある。
美術は選択科目でしかないし、残念ながら、美術を選択していない私は、ほとんど行ったことがない。
だからだろうか、自然と足がそこに向いていた。





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