中編

□雨の記憶
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―――



彼が私の前から去って、どのくらいの時間が過ぎただろう。


正確な時間なんてわからない。


だけど、すごく長い間、そうしていた気がする。



地べたに座って、雨宿りもしようとしないで。





「……?」



ふと、気付いた。



私のところだけ、雨が止んでいた。




見上げれば、見知った顔が心配そうに見ていて。



「石橋くん…?」


「ずっと此処に居たら、風邪を引くよ?」

声をあげれば、ほふっと柔らかい笑みを見せてくれた。
そして、優しい言葉をかけてくれた。


「……ありがとう…、石橋くん…。私……どうかしてた。」


そう、私はどうかしてた。


フラれたけど、フッたようなもの。


気付いてたんだから、彼の気持ちに。


「…そっか…。制服、びしょ濡れだね。これに着替えて来なよ。
そこに、コンビニがあるから、其処のトイレで。」


差し出された紙袋。


「え、でも…これは…。」


「大丈夫、ジャージは使ってないから。」


「そうじゃなくて…。」


「いいから、着替えて来なよ。風邪引いちゃうから。」


優しく、心配してくれる声。


打ちのめされた私には、とてもありがたい言葉で。




「一緒に行くから。」


「……ありがとう……。」


優しい。


優しすぎるよ。






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