中編

□月の泪
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夜も更けて、辺りは静まり返っていた。

「なぁ、こんなところに居るのか?」

「さぁ、私にはさっぱりだ。だが、センサーには反応している。」

暗がりの公園。
草木が生い茂る中、ひそひそと話し声が聞こえる。

「しかしよ、なんでまた、夢見人なんて探しにきたんだ?」

「私に聞かれても。呉羽様のご命令だ。」

「理由くらい、云ってくれてもいいのになぁ。」

「私に文句を云われても。私には答えかねる。」

風が静かに吹く。
雲に隠れていた月が、そっと顔を出す。

「おい、誰か来る。」

その声と裏腹に、月の光が闇に紛れた姿を、ゆっくりと照らし出していた。
声の主は、まだ若い青年だった。その隣には、黒猫。妙な組み合わせであるが、もっと妙なものがあった。
青年の背には、黒い大きな羽根が存在していた。
こちらに近付く足音がだんだんと大きくなり始めていた。

「おい、こっち来るぞ。」

「少しは黙っていられんのか。これでは、見つけて欲しいと云ってるようなものだぞ。」

「そ、それもそうだけどよ…。」

青年は猫の言葉に口ごもる。しかし、それはもう遅かった。

「「あ。」」

同じく声を出した二人は、しばし見つめ合っていた。

「あ、あの、猫さん…居ませんでしたか?この辺で声、聞いたんですけど…。」

目の前に突然現れた少女は、学生服を着ていた。

「ね、猫なら…。」

青年は云いながら、横に視線を滑らせる。

「あ、猫さん!やっぱり、私の思った通り!」

少女は嬉しそうに云い、猫の前に膝を付く。

「この子、貴方の猫さんですか?」

「え、あ、一応。」

「可愛いですね!今は夜のお散歩中ですか?」

少女は猫の両脇に手を入れ、持ち上げた。

「ま、まぁ、そんなとこ…。」

目を泳がせながら答える青年に少女は笑いかけ、はっと、目を見開く。

「…綺麗な、羽根、ですね…。」

「しまった!」

気付くのが遅かった。少女は青年の背にある羽根に視線を注いでいた。

「わぁ…凄い。私、夢で見たんです。天使さんに逢う夢。」

「は?」

少女の目は眩しいくらいに輝きを放ち、幸せそうなオーラが滲み出ていた。

「夢で見た通り、猫を探しに此処に来たら…本当に貴方に逢えた。」

少女の言葉は、あまりに突然で、非日常だった。


「あ、」

青年の首元が光る。青年の首に付けられた首輪が光を放っていた。

「まさか…」

黒猫がそれにいち早く気付いて言葉を漏らす。

「おい、架杏、これって…」

「この娘が、夢見人…。」

「んん!?猫さん今…」

「私の名は架杏。娘、そなたの名は?」

猫は宙ぶらりんのまま、名を告げた。

「わ、私は、神崎葉月、です。」


少女は驚きながらも、自己紹介した。




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