長編Book
□大人数でどんちゃん騒ぎをやってるらしい
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大学から帰ると、こうなっていた。
いや、僕の部屋に支障は全く無いが、問題なのは隣の部屋なのである。
<大人数でどんちゃん騒ぎをやってるらしい>
笑い声。
大音量のテレビ。
ひとり、ふたり、さんにん…よにん、か?
隣人が、友達でも呼んで騒いでいるのだろう。
夜中に掃除をしたり泣きながら歌ったり騒いだりして忙しい奴だ。
僕はすっかり疲れてしまっているので風呂に入る事にした。
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入浴を済ませて部屋に戻ると隣は静かになっていた。
決して友達が帰ったのでは無く、声量が下がったのだろう。気配は感じる。
そ…、うち…あ……る…
静かな声が壁の向こうから聞こえた。濡れた髪をタオルで拭いながら近寄る。
…だ……わかん…ぇ……
僕はこの部屋に住むことになってから、盗み聞きが趣味みたいになってしまった。
罪悪感を感じながら、静かに壁にもたれかかる。
…っと、…居ます……。…きらめ…はダメ…す…
知っている声では無かったけれど、僕は耳を押し当てて、耳を澄ました。
…馬鹿ですね…、しかし実に貴方らしいです……
……マット。
「……!?」
僕は息が止まった。
“マット”…?
知らない名前では無かった。
知らない声がマットの名前を呼んだ。
直ぐに思い浮かんだのはあの夏に出会って、その夏に別れた彼の顔だった。
しかしどうだろう。ここは外人は結構住んでいるし、ただ同じ名前なだけかもしれない。“マット”だなんてよくある外人のニックネームだ。隣人の名前はマシューかもしれない。
そう、それに此処は日本だ。彼が此処に居る筈が無い…
僕は今ミサからも離れて、一人なんだ。
僕はなんだか、隣人が怖くなった。
マットかもしれない…、しかしきっとマットでは無いだろう…
隣人の顔を見たら、心のどこかでの期待が壊されてしまいそうで、怖い。
■さよならをしたじゃないか。