「なあ」 「ん…?」 「お前はさ…こうやって誰にでも抱かれるのか…?」 事後の汗ばんだ肌に、わざとぴったり身を付けて問えば。 乱れた頭髪をかき上げて、抱いたはずの男は余裕に満ちた笑みを浮かべる。 それは、どこか焦らすような、小憎らしいほどの大人の余裕。 「誰でも、というわけではない」 白く、しなやかな筋肉の浮き上がった腕が、するりと持ち上がる。 「俺は英雄にしか身を任せぬ…」 妖しく不遜な微笑みと共に、膝が立てられ、腰を締め付けるように絡んだ。 すると、一回りも若い騎士は、憑かれたような眼光で、未だ衰えぬまま激しく腰を擦り付けて挑発する。 「お前を抱きたい」 熱く喘ぐような声、まるで、戦の中、好敵手を前にしたときのような。 この若者は、自分を打ち倒したいのだろうか。 身を任せるだけでは――心を許したという安堵だけでは満足しないのだろうか。 滾る征服欲を宥め得ないのだろうか。 「お前の望むように――」 「違う…ッ!」 振り払うように首を振る。 赤い瞳が、微かに見開かれた。 「お前を抱きたい…抱いて、全部、俺のものにしたい。俺のものに…!」 背骨がきしむかと思うほどに強く抱きしめられて、しかし、公孫瓚の表情はどこか醒めていた。 「なあ、伯珪…!」 若く熱い声が答えを急かすのに、軽く腕を回して囁く言葉は。 「お前では無理じゃ」 熱に浮かされた言葉を、静かに沈めてしまった。 折れんばかりに抱きしめていた腕の力が、緩んだ。 腕の隙間からするりと抜け出した手が、若く精悍な頬を愛撫する。 「お前は俺と同じ…。お前は、共に沈むことはできるが、俺を引き上げることはできぬ。ならば、俺を有することはできぬ」 その言葉に、尖った大きな瞳が驚愕と絶望に大きく見開かれ、悔しそうに閉じる。 「くそ…っ」 優しく撫でる手も屈辱だといわんばかり、引きはがして抱きすくめてしまう。 無心に口を吸われて、じわりと体が疼く。肌が熱く、かすかに湿り気を帯びて吸いつき合う。 くせのつよい銀髪を撫でてやると、鋭い銀色の目が少し傷ついたように、こちらを睨んだ。 が、そのまま何も言わず、さっきよりは優しく口づける。 「――っ!」 押し入ってくる動きは、ずっと性急だった。喉の奥でせき止められた嬌声が、白い喉を震わせて伝わってくる。 激しいが、絡みつくような腰の動きに、組み敷いた腕がすがりついてくるのを感じて、思わず笑ってしまった。獲物が屈するのを見る狩人のような。 「あっ…ぁ…」 熱く息をついで喘ぐ姿は、確かに彼の美しい獲物だった。 「今は、俺のものだ……そうだろう…?」 責めるような動きに悲鳴のような声が混じるのは、彼の猛々しい心を満足させた。 背をしならせて悦楽を享ける姿も、乱れた銀髪が褥に乱れ散る様も、全部、今だけは自分の物なのだ。 (ああ、そなた――) 胎内に熱い塊を受けて、白い脚が震えた。 充足に微笑む、美しい精悍な顔も涙でかすんで見えた。 そんな残酷で美しい表情をするからこそ、共には生けないというのに。 |