帳中

□月出
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 熱い皮膚を刺しつらぬいたとき、初めて、眼下の人が己のものになったと感じた。
 薄い皮膜まで吸い付く粘膜の温かさ。
 熱の塊を受け止めようとする肉の蠢き。
 その全てが、ただ自分のゆえに生まれているのだ。
「伯珪…」
 圧倒的な快感に声がかすれた。
 欲望のまま弾む腰が、引き締まった肉体を揺さぶる。
「っふ…ぅ、あ…あっ…」
 恥じらうように唇を噛み、切れぎれに漏れる声が悩ましい。
 ひそめられた眉の美しさに目を奪われたとき、ひときわ激しい何かが、荒々しく陳琳を突き動かす。
「あぁっ…!ゃ、ぁ…やめ…ッ…あ、あぁ…こ、ぅ…っ…!」
 身もだえるたび、長い髪があでやかな銀色にきらめく。
「綺麗だ…きれいだ……伯珪…俺の…」
 かぶりを振れば、月の入りの空のような銀の髪が揺らめいた。
「ぁ…んっ…孔、璋…」
 白い月光と柔らかな灯火に、赤く上気した頬が照らし出される。
 きつくつむられた眦に盛り上がる涙へ、なだめるように唇を寄せ、ちゅっと音を立てて吸い取った。
 口づけもそのままに、熱く赤い頬へ、それ以上に熱い舌を這わせる。
 発する熱も、涙も、全て舐め取らずにはいられない。

――愛している

 ささやきあう言葉は、もうどちらの声なのかわからない。
 やわらかな肌の弾きあう音、滲む体液の飛び散る音に交じって、悦びに喘ぐがまま、恍惚と紡がれる。
 忘我の叫びを唇へ重ねたまま、二つの体がくずおれた。





 夜明けまでの短い時を、緩いまどろみに寄り添い沈む。
 ふと、陳琳は体を起こした。
「行くのか」
 見上げる鋭い真紅の瞳へ、頷く。
「行く」
「そうか」
 銀色の睫が、僅かに震えて瞼を下ろした。
 黎明の微かな光と、未だ尽きぬ灯火の明かりと。
 二つに照らされて柔らかに輝く銀髪を、一房すくい取り、名残惜しそうに口づけた。
「孔璋」
 ふと、身を起こした公孫瓚が、じぃっとこちらを見つめる。
「また、来てくれぬか」
 ああ、と呟き、陳琳はその体を思い切り抱きしめた。
「行って来る」
 窓の外は鮮やかな東雲。
 夜明けの光に月はいよいよ皓く、しかし、透き通っていった。




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