帳中

□陰天
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 服の留め金を外すと、青白い肌と痩せた鎖骨が現われた。
「小娘のような体だな」
 喉の奥で笑い、揶揄すれば。
「ふざけるな!」
 羞恥と緊張が途切れたのか、顔を真っ赤にして怒鳴られた。
 こちらはというと、唇をうっすらと舐めて、誘うような風情で怒りを煽る。
「ふざけて当然じゃ…これは戯れ…そうであろう?州牧どの・・・…」
「っ……!」
 わざとらしく役職を呼び、嘲弄する態度に、怒りのあまり涙が出そうだった。

――だが、ここで拒絶してしまえば、害を被るのは無辜の民。

 唇を硬く引き結び、顔を背ける劉虞に、公孫瓚は嘲るように鼻を鳴らした。
 相手を怒らせ、また詰まらせ、その顔色を観るのも一興。
 媚びることのない凛とした振る舞いは、かえって似つかわしい。
 可愛げのない美人には、快楽の味を強いてやるのが最も面白い。
 抗う獲物を見下す公孫瓚は、どこまでも冷たく傲慢。
 捕食者に逆らい見据える劉虞は、どこまでも清らかで静か過ぎた。



 形のよい唇が白いうなじから喉を這い、肩から胸へと滑り落ちる。
「ふ…っ……」
 半裸の体が震え、唇の動きに悶える。
 胸元へ舌が伸びると、声を殺して体を仰け反らせ、舌先で弄ばれる快美に眉をひそめる。
「動くな…噛んでも知らんぞ……」
「な…っ……」
 息を継ごうとするが、絶え間ない愛撫に声を漏らしてしまい、よりいっそう扇情的な喘ぎとなってしまう。
「誘ってくれる……」
 いきなり、その唇を口づけでふさいでしまうと、舌を差し入れて、口中を犯すように弄った。
「ん……」
 粘膜の触れ合う音を響かせながら呼吸する合間も、絡めあった舌は離さない。
 唇を押し付けて、貪るように唾液を弾く。
 激しい接吻を繰り返し、相手の唇へ唾液を絡ませて、舐め上げ、ようやく唇を離した。
 まだ熱い呼吸を繰り返す唇を、軽く舌でなぞってやる。
 片手で胸元を弄りながら、もう片方の手が下へ降ろされる。
「止め……っ……」
 気付いて弱々しく動くものの、押さえようとした手は、与えられる快楽に震え、相手の肩へとすがりついてしまう。
「爪を立てても構わんぞ…悦いのだろう?」
 そう囁いてやると、途端、左の肩に痛みが走る。
 縋るというより、咎め立てるために爪が食い込んだ。
 味わったことのない感覚に怯みながらも、精一杯、こちらを睨み上げる、その態度が逆に興をそそる。
 唇を歪めるように微笑むと、動かす右手に幾分か力を込めた。
「…あ…ぅっ…」
 きゅっと目を閉じ、震えながら縋り付く様子は、本当に愛すべき姿だった。
 すでに緩い愛撫を受けて熱く、先端を指でまさぐれば潤み濡れている。
「ふ、くぅ…っ…ぅん…んっ…」
 肉の薄いくびれをくすぐるように撫で、蜜口をこじ開けるように擦り上げれば、必死に噛み締める唇から長い呻き声が漏れた。
「声を出してしまえ…堪えれば、唇が切れる…」
「いや…っ…いや、だ…っ!」
 快楽に耐える表情、その背徳的ともいえる美しさに、知らず知らず声が上ずる。
 もっと見たい、もっと追い詰めて、絶頂を迎える表情が見たい。
 欲望のまま激しく動く右手に、抱きかかえた体が跳ね上がる。
 喉の奥にせき止められた悲鳴を逃すように、無理やり口付け、唇をこじ開けてやった。
「んんーっ!んぅ…っ!」
 触れた唇は、先ほどとは比べ物にならないくらい、熱い。
 切れ切れに続く悲鳴を抑えることもできぬまま、重なった唇の隙間から唾液がこぼれていく。
 柔らかな肉と液の混じりあう音は、既に相手を貫いているかのように卑猥で、やけに大きく響いた。
「は…ぁ、あっ、やめ…っ…あぅ、あっ…!」
 行き場をなくした手が、肩をしたたかに掴む。
 しなやかな背中が硬直した。
 掌で肉塊が膨れ、脈打つ。
 すぐに、熱く濡れた感触が伝わる。
 荒い呼吸を繰り返して余韻に溺れる肢体を見下ろした。
 汗ばんで上気した顔が美しい。
 目が合った相手は、快美に眉をひそめ、淫猥な視線の誘惑から逃れようと、目をそらす。
 抜けるように白い太腿を抱える。
 内股をやわらかく撫でながら、胸に付くほど脚を大きく曲げさせ、一気に開いた。
「やめ…っ……!」
 顔を真っ赤に火照らせ、すばやく顔をそらすが、体は隠しようがない。
 が、押し開いたまま、何もせずに見つめるだけだ。
 視線だけが冷たく熱く肌の上を這い回る。
 指と舌と唾液で、この上なく淫らに馴らされた肌。
 それが、なぶるような視線を受けて、淡く紅く血が上っている。
「も…っ、いい加減にしろ…!」
 もはや、恥も外聞もあったものではない。
 紅潮した頬へ涙をこぼしながら、劉虞は公孫瓚を怒鳴りつけた。
「するなら…ッ…早くすればいい!こんな…こんな…!」
 震える声を振り絞り、精一杯、怒りを表す様子は、はたから見ればとてもみっともなく、また可愛らしいものだった。
 公孫瓚の唇に、嘲るような微笑が浮かんだ。
「早く、と言うなら、そうしてやらんでもないが…」
 そう言って、不意に体を密着させる。
「な…、っ!?…ひっ…ああぁ…っ!」
 劉虞の体が、悲鳴と共に跳ね上がった。
 想像だにしていなかった痛みが突き刺さる。
「どうじゃ?このまま進めるか?」
 性悪な囁きに言い返すことすらできず、劉虞は必死に首を振った。
 すると、脂汗を滲ませた額へ軽く口付けが落ちた。
「下手をすると、気が狂う…拷問にも使えるくらいだからの…」
 低く笑いながら、浅く挿した指先を引き抜く。
「うぁ、…っ…」
 ひくりと震える、その感覚。

――いっそ、このまま犯してしまおうか。

 そんな嗜虐的な誘惑が、公孫瓚の脳裏をかすめる。
 悲鳴を上げてのたうちまわる体を押さえつけ、腰を引き裂かんばかりに突き入れたとすれば、その感触はどんなものだろうか――。
 いや、と首を振った。
 類まれな体であるからこそ、下劣で卑猥な悦びに落としてやりたい。
 苦痛ではなく、快楽に負けることほど、誇りを傷つけるものはない
「恥ずかしければ目を閉じておれ」
 指を舐めながら、せせら笑った。
「これから、死ぬほど恥ずかしいことをすると思えばな」
 劉虞の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
 それがたまらなく心地よかった。


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