帳中

□陰天
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 突き入れるだけ入れると、彼はおもむろに腰を動かし始める。
 だが、その動きは、快楽を得るためというよりは、何か探っているような、不規則なものだった。
 初めて入れられた身にとっては、そんな動きは苦痛以外の何物でもない。
 あまりの圧迫感に、押さえていた手を離し、軽く咳き込んだ。
 すると、公孫瓚は器用に体を倒し、なだめるように口付けを落とす。
 その感触だけは、妙に優しかった。
 やがて、体内でうごめいていた先端が、一箇所に触れる。
「…っ…!?ぃや…っ!」
 芯に得体の知れぬ熱が奔り、本能的に身をよじって逃げようとするが、その腰を白い手が押さえつけた。
「ああ、見つけた…」
 意地悪く笑って、戸惑い逃れようとする腰を攫み直すと、今度は容赦なくその部分を突き上げた。
 押さえた手の甲の向こう、喉の奥から悲鳴が上がる。
 衝撃に見開かれた鳳眼が潤み、溢れた涙が鬢を這う。
 断続的に腰をうがつ圧迫感と、突かれるたびに込み上げる違和感が、体の中を迫り上がって窒息しそうだ。
「いや…っ!そこ……っや…ぁっ!」
 たまらず手を離して訴えるが、それは彼の陥落を肯定し、相手に征服欲をもたらすだけだ。
「…安心しろ…いずれ悦くなる……そこに触れられるだけで、泣き叫ぶくらいにな…」
 視覚と触覚のもたらす快楽に掠れた声で囁きながら、一段と深く腰を突き動かす。
「あ…ぁ…ゃ、だ…あっ、あ、あぅ…」
 紅潮した頬にかかる銀の前髪をはらってやれば、切れ切れの悲鳴を漏らす唇に指が触れた。
 小刻みに吐き出される吐息、その熱さ。
 興奮が熱となり、更なる硬起を覚える。同時に、半ば勃ち上がったままの彼自身へ手を伸ばした。
「ぅ、ああぁ…っ…!」
 くぐもった悲鳴とともに、揺さぶられるだけだった彼の腰が跳ね上がる。
 律動に合わせて手を滑らせれば、硬く熱を帯び、ぬめりすら溢し始めた。
「も…っ、ゆ……」
 はっと唇を噛んだが、遅かった。
 相手が、満足そうに唇を歪めるのがわかった。
「ゆるして?」
「っ…!違う…っ!」
 必死に首を振るが、その動揺に“肯定”を確信した公孫瓚は、あからさまな優越感に満ちた嘲笑を浮かべる。
「今日はここまで……続きを愉しみにしておれ、な……」
 男の悦びに身をよじる嬌態を見下ろしながら、暗い微笑とともに呟く。
 その声が聞こえていたわけでもないだろうに、手の中の男性が一段と硬く張る。
「っ、は……この、淫乱が…」
 反り返るほどの硬さを感じると、自分も達するための律動へと動きを変える。
 弾き合う肌が音を立て、香油と津液があわ立ち、染み出す。
 太く浮き上がった裏筋を締め上げるように扱き、先端の薄い皮膚を潰し、こする。
「はは…好いぞ、…いい…」
「っゃ…あぁ…あん、ぁ、っあ、も…いやああっ…」
 自身の呼吸の合間に、相手の漏らす苦痛にも似た嬌声を聞き取ると、我知らず笑みがこぼれた。
 劉虞の手が敷布を硬く握り締め、身をよじる。
 背を仰け反らせ、間も無く至るだろう絶頂を待つように硬直した瞬間。
 唇を押さえていた手を、払いのけてやった。
「っ…あっ……ああっ…!」
 短いが、確かに絶頂を訴える、悲鳴が弾けた。
 快感に任せて腰が跳ね上がり、後庭がきつく収縮する。
 飛び散った精液に構わず、果てた体を引き寄せると、そのまま激しく腰を叩き付けた。
 覆いかぶさった体が、びくりと一度、大きく痙攣した。
「は…っぁ…」
 吐息にも似た相手の凄艶な呼吸に、劉虞が我に返ったのも束の間。
「っ…」
 体内で脈打ち吐精する感覚が伝わり、微かな声が漏れた。




 ともすれば遠のきそうになる意識を必死につなぎ止めていると、くっと喉の奥で嗤いながら、公孫瓚が身を起こした。
 霞がかったような眼で自分を見つめる劉虞に、冷たい微笑を浮かべる。
「好かったぞ?」
 その言葉に、羞恥と情けなさで顔が熱くなる。
「約束は…」
 消え入りそうな声で問えば、公孫瓚は白けたように鼻を鳴らした。
「ふ、ん…守るわ。…それだけの価値があった」
 価値、という言葉に、劉虞はやるせなさそうに目を伏せた。
 どれほど己が堪えたとて、この峻烈な男にとっては意味の無いこと。
 彼にとって重要なのは、情交のもたらす快楽、己という人間を犯す優越感、それによって確保される地位の安定。
 そこに情愛など存在しない。
 血の通った心も無しに交わるなど、今までの劉虞は考えたこともなかった。
 いや、頭では理解していても、己がその対象になるとは予想だにしていなかった。
 それでも、彼は「好かった」と言い、「約束は守る」と言った。
 これで良かったのか。
 やがて思考はとりとめなく沈み、暗転した。



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