捧物

□5000hit記念B
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貴方の瞳に聖約を誓う。




「…殿下」

ぼう、と寝台の上に座り込んだスコルピオス殿下に声をかける。
殿下が声を失ってから、早三日。執務には滞りは、ない。端から見れば、なんの変わりもない日々。
しかし、そばにいる私だけは分かる。彼は、ぼう、とする時間が長くなった。前から、突然糸が切れたように動かなくなることは、あった。だがそれは短い間だけで、私が声をかければ振り返った。

「殿下」

もう一度声をかける。彼はまだ、ぼう、としている。ゆっくり瞬きをする。赤い髪がさらりと揺れた。

「殿下」

今度はもっと近くで。顔を覗き込むようにして声をかけた。今気付いた、というようにはっとして見開かれる瞳。赤い赤い、瞳。

「…大丈夫ですか?」

こくん、と頷かれる。無表情。
前から表情の乏しい人だったが、声をなくしてからさらに乏しくなった。言葉がなくても通じ合えるなど所詮詭弁でしかなく、完全な無表情でいられると全く分からない。

「殿下」

頬に手を添える。するりと目元を撫でた。無表情に変わりはない。

「どうか、絶望だけはなさいますな」
「例えこの世界が貴方の敵でも」
「私は貴方の味方です」

ぐう、と見開かれる目。深い赤色に、ひどく深刻そうな顔をした私が映っていた。

「私は貴方の傍にいます」
「私が、貴方の声になりましょう」

彼は動かない。それでも、見開かれた瞳の中に光を見た気がした。
貴方のためならどんな壮大な聖約でも躊躇なく誓おう。それで貴方が救われるならやすいこと。

どうか、笑って。




END.
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