捧物

□貴方は素直じゃないのよ。
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休み時間。廊下を何となしにぶらぶら歩いていたら、仏頂面の彼を見掛けた。これはもうわたしが飛びかからない訳があろうか、いや、ない。絶対に、ない。わたしは自分でも最高だと思える満面の笑みを顔いっぱいに出して彼に駆け寄っていく。彼が振り替える。わたしに気付く。もちろんわたしは抱きとめてくれると信じて疑っていない。だって彼はわたしの恋人なんだから!


「やっほー!スコピー!!」


ばっ!

さっ

ずべしゃ…


そんな馬鹿な!
わたしが叫んで飛び付こうとした瞬間、愛しの恋人は素早く(そして華麗に)わたしを避け、わたしは美しくも可愛くも可憐でも優雅でもなく無様に地面に頭からスライディング。ああ地球さん、こんにちは。愛しているわ、キスしましょ。
…おかしい。絶対におかしい。わたしは恋人に抱きつくつもりだったのにどうして地面に抱きついてあまつさえキスまでしちゃってるんだろう…?
わたしは、ひらりとわたしをお避けあそばした愛しの恋人に抗議すべく、猛然と立ち上がった。


「いたいじゃない!!スコピー、避けないでよ!大人しくわたしに抱きつかれなさい!!」


びしり、と人差し指を突き付けると、ぺしん、とはたかれた。人を指差すな、と言うことだとわたしは信じているが、では何故人差し指は人差し指って名前なんだろ?
…話がそれた。ぺしん、とわたしの指をはたいたスコピーは、わたしに負けず劣らずの剣幕で叫んだ。


「却下だそんなもの!寄るな!触るな!抱きつくな!!」

「なああああ!?」


スコルピオスさん、それは貴方に精一杯の愛を伝えようと抱きつきに来たかわいい恋人にはあんまりなセリフではございませぬか!!?
愕然と顎をおとすわたしを知ってか知らずか、スコピーはさらに捲し立てる。
いつもはもっと無口なくせに、こんなときばっかりよくまわるお口だこと!その勢いでもっと好きとか愛してるとか、わたしに言ってちょうだいよ!!
そんなわたしの心の叫びを知ってか知らずか(きっと知らないわよね…)愛しの恋人は真剣な顔だ。


「いいか、オリオン。あと一センチだ。あと一センチ近寄ったら警察を呼ぶ。セクハラで訴える」

「普通逆じゃ…」


わたしの冷静かつ適切な指摘は、ばっさりと却下された。誰に、って…スコピーに。


「被害者は私だ!!」


そんな真顔で宣言しないでよ傷ついちゃうじゃない…じゃなくて!被害者って!スコピー今までわたしのスキンシップを悪質な逆セクハラだと思ってたってこと!?そんなのひどいわ!!
と叫ぼうと口を開いたとき、はっと気付く。スコピーの顔がゆでダコみたいに真っ赤なことに。ご丁寧に耳から首から全部真っ赤だ。まっかっかだ。今に頭とか耳から湯気でも出るんじゃないかってくらいまっかっかだ。


「…素直じゃない」

「私はこれ以上ないくらい素直だ」

「んもう!照れちゃって!」

「はあ!?」


ふふふん!そんな嫌そうな顔したってただの照れ隠しだってわたしには分かっちゃうんだから!
わたしはなんの遠慮もなしにぎゅうと抱きついた。


「スコピー愛してるよ!!」

「離せと言うのに!!」


わたしの腕の中でばたばたと暴れるあなたも愛しいのよ!あなたはわかっているようでわかっていないけれども!


世界中に愛してると叫びたい。










END.

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