長編2(成代)

□成り代わり幸村サイド
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私の後ろを兵達が着いてくる。
傍らには馬に並走する佐助が「さっすが旦那!」と誉めそやす。
仕掛けは上手くいった。

正直、佐助達の情報から北条の軍は錬度が低いと聞いていた。
それこそ、私と十勇士だけでも何とかなるぐらいに。・・・まぁ、何とかなるのは旦那だからだけどと言われたが、その程度の軍ならばさっき佐助が言ったように某と十勇士で切り込み、佐助達にじい様の首を取らせた方が幾倍か早くて楽だ。
自画自賛のオンパレードな鼓舞をしなくても良い。

だが、それでは駄目なのだ。
それではあの五月蝿い豚共は所詮忍のおかげと私の功績を認めないだろう。
だが、忍を殆ど使わず(情報戦は別)、寄せ集めの底辺な部隊だけを率いて勝てば、それは全て私の功績になる。
上も、認めざる負えないだろう。

だからこそ、自画自賛に憤死しそうなのを我慢してくっっさい台詞を使ってまで兵を鼓舞したんだ。
私は特別だから、その特別な者が率いる軍も特別だと。
兵達の中に私の忍を数名混ぜて、勝てるかもと、生きて帰れるかもと囁かせた。
私が馬で駆け出した時には真っ先に走り出させた。
一種の集団催眠だ。

いかに人を動かすか。
切欠があれば人は案外簡単に動く。
それが、たとえ死の確立が高い敵陣への特攻だったとしてもだ。

それは、私も同じ。
丘を駆け下り、眼前に迫った敵兵を朱槍でもって切り捨てる。佐助も私の隣で大型の手裏剣を振るう。

『死にたくない者は退け!!覚悟あるものは、この幸村の槍の錆にしてくれよう!!』

私が駆け出した時点で、先に見える巨大門は閉まりだしている。
変なところゲームと一緒だなと不謹慎にも人を切りながら笑ってしまった。
真正面からそれを見た敵兵はドン引きだ。腰が若干引けている。
そういう者達は捨て置いて、特攻に邪魔な者達だけを切り捨てていく。

馬に跨って疾走する力も利用して人を切る、斬る、キル・・・・・・。
幼少から武将を目指して修行した私の力量は、周りの一般兵など眼では無かった。
しかも、バサラの能力も早々に開花していた私の槍の一振りは火の粉を撒き散らし、斬られた後ろの人間を火達磨にしていく。

実際の幸村より強いと思うぞ、多分。
馬上なため血は浴びないが私達の駆けた跡は斬り飛ばされた首や腕、足、横に真っ二つの体や火達磨の山が築かれている。
ゲームでは死体は消えたが、現実(リアル)では死んだ者は急に消えないし、槍を通して手に伝わる感触も本物だ。

だが、心は驚く程に乱れない。
私の道を邪魔するものに、私は何の感情も抱かない。

私の心を揺さ振るのは、傍らの私の愛しい忍と、今は情報収集に赴いている可愛い雛。
次に真田十勇士。たった、それだけ。

だから、虚ろになった眼を恨めしげに天に向ける生物(ナマモノ)を振り返りもしない。
チラリと隣りを自力疾走する佐助を見る。
視線に気付いた佐助はこちらを見てニコリ、と微笑む。唇は、音もなく己の事を呼ぶ。

(だ ん な 。)

気付いたら、顔は歓喜に歪んでいた。
振り下ろした槍から飛び散る火の粉は紅蓮の炎に姿を変え、傍らの忍以外を一瞬で燃やし尽くす。

あぁ、その様は――。

 まさに鬼

 まさに紅蓮

されど、その妖しく笑み敵屠る美しさはただの鬼に非ず。
彼の者の戦いぶりを見たものは口を揃えて肯定す。

あれは鬼か神。
死体を築いて艶やかに笑うは毒もつ華よ。


・・・まさに、 紅蓮の鬼 か 修羅の華 よ―――。


  
  
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