【言い逃げ】




決まった形のない、目には見えない想いを伝えるのは、言葉も態度もどちらも同じくらいに大切で、だからこそ酷く難しい。
ここにこうしていられる毎日に、してもしきれない程感謝しているのに、それだけでは満足出来ない自分は、どれだけさもしい人間なんだろうか。

顔を見る度、声を聞く度、日増しに想いは膨らむばかりで、今にも溢れ出してしまいそう。

(我が儘…だなぁ)

勉強する為に寄った筈の図書室。
それなのに、気が付けば一問も進んでいなくて。
代わりに、ずっとため息ばかりが口から零れてゆく。

いつの間にか、窓の外の景色はもう一日の終わりへと近付いている。
ぼんやりと時間が経つのって早いなぁ、なんて思った。
周りを見れば室内に居る生徒も疎らであたしを含め2、3人しか居ない。

(…そろそろ帰らなきゃ)

そう思い席を立った拍子に、腕をぶつけて消しゴムを落としてしまった。

「あ…」

待ってと云う思いも空しくそれは本棚の影へと転がっていく。
仕方なく追い掛けて追い付いた先にあった人の腕らしきものに、危うくここが図書室である事を忘れて叫びそうになった。

両手で口を塞ぎなんとか悲鳴を喉の奥へと押し込めると、ゆっくりと近付いてみる。
そうして明らかになったのは、思いがけない人だった。

「…黒崎くん?」

見間違う筈もない綺麗なオレンジの髪。
閉じられた目蓋にまた代行証に呼び出されたのかと思ったけれど、よく見れば微かにだけど胸が上下している。

(寝てる、の…?)

寝ていても軽く寄っている眉間の皺に、思わず笑ってしまった。

(でも…気持ち良さそう…)

このまま横に一緒に寝たら起きた時にどんな顔するのかなと思うけれど、勿論そんな事をしてみる勇気なんてある筈はなくて。

「黒崎くん、起きて。こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ?」

軽く揺すってみたものの、何の反応もなく。

「黒崎くんてばー?」

更に何回か呼び掛けてみても手応えなし。

場所が場所だけにあまり大きな声は出せないけど、それにしたってこんなに近くでこれだけ呼んでも起きないなんて、余程深い眠りに入っているのだろうか。

(…だったら…)

心臓は破裂寸前。
喉もカラカラ。
相手が起きていたら絶対に言えない言葉。

「……す……す……す……」

(…って、やっぱり無理っ…!)

言い終わらないうちに恥ずかしさでたまらなくなって、

悪いと思いつつもあたしは一目散にその場を後にした。

そうして振り返りもしなかったあたしには、

いつの間にか黒崎くんが起きていて、

中途半端な告白を聞いていた事も、

その後で彼が呟いた言葉も、

知る術はなかった――




「……滅茶苦茶気になるっつぅの」











(どうしよう…明日まともに黒崎くんの顔見れないよ〜!)












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素敵サイト「arancione」のにのまえ様から、相互リンク記念にいただきました、一織SSです!!
一護が寝ていると思っていても、好きと言えない織姫が可愛いです!!そして起きているのに顔を上げられない一護もらしい^^ これぞ一織の真髄だと思います!!
本当に素敵なSSをありがとうございました!!

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