記憶の糸を辿れば、いつでも隣にはリクオ君がいて…変わらない笑顔で、私を包んでくれた。
悲しい時も、苦しい時も…私は一体何度リクオ君の笑顔に救われたんだろう。
これから私達は“大人”になって…たくさんのものを失ってゆく。
でも、たった一つ…絶対に失いたくないもの。
…私達なら、きっと…
〜きっとこのまま大人になって。〜
“最愛の人は?”なんて聞かれても、私には答えることができない。それは…“愛”がどんなものなのかわからないから。
…隣にいてくれると安心できるってこと?
…どんなときも気になってしまうこと?
…ずっと一緒に…笑い合っていたいって思えること?
もしそれらが“愛”だとしたら、今の私にとっての“最愛の人”は…彼ってことになる。
「…ど…どうしたのカナちゃん?ボクの顔…なんか変?」
「えっ!?あ…違うの、そうじゃなくて…」
友達と恋愛の話をすること一時間。友達のように恋愛に興味がある訳ではない私は、そういった話になると専ら聞き役になる。よく“奴良君と付き合ってるの?”って聞かれるけど…私には否定することしかできなかった。
そんな会話をした日の帰り道…思わず私はリクオ君の顔をぼーっと眺めてしまった。
「…大丈夫?疲れてるの?」
「だ、大丈夫!考え事してただけだから!」
「…ホントに?風邪とかじゃない?ボク薬持ってるけど…」
「違うってば!」
まだリクオ君は納得いかない様子で私を見る。
リクオ君は誰よりも心配性で…相手が私の場合はその度合いが一層増す。それは時に、私が呆れる程に。
「いつも薬を持ち歩いてるの?」
「うん!…前にカナちゃんが風邪引いた時から持ち歩くようにしたんだけど…まだ一回も使ったことないんだ」
リクオ君がなにかをしようとする動機は、いつも“誰かのため”。私の思い過ごしかもしれないけれど、その目線の先には…私がいることが多い気がする。
「…そっか…じゃあ、私が本当に風邪を引いたら…その薬を飲ませてね?」
リクオ君のくれた薬なら、風邪なんてすぐに治るだろう。
「うん!いつでも言ってね!」
「…風邪を引かないのが一番だけどね」
「…そ、そりゃもちろんそうだけど…」
…でも、こんなにも心配してもらえるなら、風邪を引くのも…悪くないかもしれない。
「…とにかく、疲れてるみたいだし…今日は早めに寝なきゃダメだよ!!」
「はーい」
私が素直に頷かなければ、たぶんリクオ君は怒っただろう。それがわかるのは…もし逆の立場なら、間違いなく私がリクオ君を怒ったから。
「…そういえば、さっきリクオ君が言った事って…前に私がリクオ君に言わなかった?」
「………そうだっけ?」
「絶対そうだよ!ほら、リクオ君を保健室まで連れて行ったとき…」
…同じだ。私も…リクオ君と。
リクオ君の事になると…自分でも呆れるくらい心配になる。
「リクオ君もちゃんと寝なくちゃダメだからね!」
「わかってるよ…。…もう…どうしてボクが注意されなきゃならないの?」
…そんなの決まっている。
“大切”だから。
「…そりゃあ…幼馴染みだから、かな」
リクオ君に言うように…自分に言い聞かせるように。
「…ってことは、ずっと言われ続けるんだ…」
「そんなのお互い様でしょ?」
そう…これから先も、ずっと。
「…そうかなぁ…カナちゃんがボクに言う方が多い気が…」
…私はリクオ君に言われる事の方が多いと思ってるから…結局はお互い様ってことなんだろう。
「…ね、リクオ君。…十年後にリクオ君は…なにしてると思う?」
“今”という時間よりも“ずっと先の未来”に…私達はなにをしているのだろうか?
「えぇっ!?じゅっ…十年後?…おじいちゃんの後を継いで…あっ!?…じゃなくて…」
『…?後を…継ぐ?』
「…えっと…警察官、かな?」
『???まぁ…いいか…』
リクオ君の秘密は気になるけれど…“待つ”と決めたリクオ君との約束を、破る訳にはいかない。
「カナちゃんは?」
「…そうだな…私は………」
「……えっ?ご、ごめん!今なんて言ったの?」
“リクオ君の隣で笑ってる”
これまでと、なに一つ変わらずに。
「教えない!聴いてなかったリクオ君が悪いんだからね!」
…これが“愛”なのか…今の私にはわからない。
「だって急に小声になるんだもん…聴こえないよ」
どんな道を選んで、どんな大人になるのか…想像すらできない。
「知りたいなら…また今度、ね」
…でも、私達なら……きっとこのまま大人になって。
“大切なもの”を失うことなく、いつまでだって…笑い合っていられるよね?
私達には、まだたくさん時間があるから、ゆっくりと2人で…記憶を紡いでゆこう。
fin.
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あとがき
こちらのSSは、柚木様の素敵サイト「まどろみ」よりお題をいただき、書かせていただいたものになります。素敵なお題を本当にありがとうございました!!
私がいただきましたお題は、
「きっとこのまま大人になって。」
…私の脳内では、このお題を拝見させていただいた瞬間に“リクカナしかない!!”と歓喜いたしましたw 希望させていただいた通りのお題をいただき、一人テンションが上がったことを覚えています!
今回のリクカナは、特にイベントが起こるわけでもなく…“幼馴染みとしての繋がり”のみを重視して書かせていただきました。いつまでもこの2人はこのままが良いな…という作者の願望が非常に強く出ていると思います。お互いに大切に想いながらも、その気持ちがなんなのかわからない…それが今のリクカナなんじゃないかなぁ…と考えております。…少しでも楽しんでいただき、リクカナ好きな方が増えていただけたら嬉しいです^^
最後までお読みいただきありがとうございました!!今後ともよろしくお願いいたします!!