愛してもいないのに
求められればそばにいる

寂しい僕の常套手段

一人じゃ
ここにいる自分の存在も
消えてしまいそうで

ただ
言ってほしかったんだ

誰でもいい
ここにいる僕を見つけて
『そばにいるよ』と









言葉を探す。
雪のように儚げではなく、太陽のように全てを包むような優しい言葉を。
この人はいつも自分から雪の中に埋もれているようだもの。そんな溜息を漏らして、雪解けの光を探す。
空気は刺すように冷たく、彼の目もそれに負けぬくらい冷たいものだった。

学校帰りの放課後。
微妙な距離を保ったまま、並んで帰るのが日課だった。
私から告白して、付き合い始めてからもう三ヶ月。最初から快諾されたわけではなかったけれど、受け入れてもらえたことは確かなはずだった。
それなのに縮まらないこの距離。
「寒いね」
「ん」
「あ、手袋貸そうか?」
「いらね」
「…あったかいのになぁ」
独り言のように呟く日々。
こんな会話ばかりで、どんな言葉をかけたら雪の中の彼に触れられるか…本当に必死で言葉を探していた。
「んじゃ、また明日」
結局、言葉を探し出せずに、いつもの分岐点で、いつものように別れる。
いつものようにー…。
それはもう嫌っ!
「明日っ!どこに行けばあなたに会えるのっ!?」
気付いたときには探していた言葉とは程遠い気持ちをぶつけていた。
驚いたように振り返った彼は、少し前の私のように言葉を探しているようで、
「学校…とか言ったら怒られそうだな」
そう微かに苦笑して答える彼。その瞬間『あ、会えた』と思った。そして、次の瞬間には彼のほうへ駆け出していた。
「もっと笑おう?あなたがここにいるんだって私に教えて」
「…?」
「そしてね、私がここにいるんだってちゃんと見て。ここに…ほら!いるんだから」
右の手袋だけを素早く取って、彼の冷たい手を握る。
ほんの一瞬、ビクッと震えた冷たい手は…それでも拒絶することはなかった。
考え込むようにしばらく無言で繋いだ手を見ていた彼は「あったかいな…」と呟くと、やっと真っ直ぐ私を見た。
「やっぱ手袋、借りることにする」
「…へ?あっ!」
左手で握っていた右の手袋を取り上げると、彼は自分の右手にはめた。
「伸びる伸びる」と私の手袋をはめた自分の右手を眺めている彼からはさっきまでの冷たい空気がしなくなっていた。
「そんなに伸びちゃったら、私がはめたとき緩くなっちゃうよ!」
自分から『貸す』と言ったくせに文句をつける私に「大丈夫」と彼は答えた。
「緩くなってはめられなくなったら俺の手を貸すよ」
「冷たいくせに〜…」と非難めいた言葉を返しながら笑いあう。




言葉を探していた。
太陽のように全てを包むような優しい言葉を。
だけど、伝えたかったのは言葉じゃなくて気持ちだった。
選んだ綺麗な言葉なんかじゃ得られなかった雪解けに、必死で言葉を探していた自分が馬鹿みたいだった。

「ね、ね、ねっ!」
袖を引っ張って振り向かせる。
こんな簡単なこともしてこなかった自分ってホント馬鹿。
真っ直ぐ向けられた目。冷たくもなく私を映している。

「これからもよろしくね」

嬉しくて告げた言葉に「こちらこそ」という返事は間を持たずに返ってきたのであった。








冷たい指先でも
掴める力があれば
それでよかった

モノクロの視界でも
どこに何があるって解れば
それでよかった

火傷しそうだと思った温かさは心地よく
カラーの視界は
君の存在と僕自身を映した

君の存在も僕の存在も
認めてしまえば願いは叶い

次は誓いを
ただ一つ立てる

『そばにいるよ』









■あとがき■

祝☆10000hit記念でした。
続きは20000hitです(笑)
ここまでやってこられたのも皆様のお蔭です、本当にありがとうございます!
この詩と小話のミックスに限り…まぁ、こそっとお持ち帰り自由とさせていただきます。
一応、著作権は放棄していませんので『これは[again and again]の悠夜の駄文』とでも一言書いてくだされば、どうされても結構です(「もらいま〜す」とお知らせしてくださると嬉しいけれど…)
ま、貰う人なんていないか!
何はともあれ。『ありがとう』と『これからもよろしくお願いします』をあなたへ…

榊 悠夜


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