御題物

□03,毀れ落ちるはひたすらの想い。
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「・・・やだ、洗って」

「怒るよ?」

「じゃなきゃ今日の学会でないし」

「ミヤくん、俺がミヤくんの顔を洗ってあげるのは簡単だよ?でもね・・s」

「「それはミヤくんの為にならないことなんだよ」」

「でしょ?お決まりの台詞、333回記念、見事なハモリだべ」
「う・・・・・」

「18年も一緒にいて、333回も言われりゃ誰だって出来るよ」
「数えないでよわざわざ」
「数えてないよ、覚えてただけ。ちなみに一語一句同じ台詞が333回目ね。類語は省略対象。」
「事実嫌味なのは変わらないよー!」
「故意じゃないし」
「口に出したら仮定は関係ないのっ」
「ふぅん」

ゆっけは金髪のサラサラなおかっぱ頭をくしゃくしゃに掻きながら、僕の腕を強く掴んで洗面所に連行した。
空いた片手で起用に洗面器を用意して、蛇口から水を出して溜める。

「ほら、早く顔洗う!」

「・・・・・・じゃ洗ったらゆっけが髪梳かして?」

すねた口元で訴えると、目を見開いて戸惑ってから、困ったように自分の前髪を撫でる。
これはゆっけの癖。

「理解ったよ。髪やってあげるから、早く顔洗ってね。また今日も寝坊して時間無いんだから。」

「へへ」

嬉しい。

「ご飯用意しとくからね、今日は珈琲?紅茶?」

「きゃらめるまきあーと」

「・・・・はいはい。面倒だなあもう。」

「ゆっけやさしーの」

「ちゃんと洗顔フォーム使うんだよ?洗い残しちゃ駄目だよ後で痒くなるんだから」

「わぁーってるー」


てってってっ。ゆっけの小走りする音。この家はとても広いから、ゆっけはいつも大忙しで、かわいーの。

僕はゆっけの音でリズムを取りながら、洗面器に溜まった水で顔を湿らせて、洗顔フォームをあわ立てる。
もこもこ。もこもこ。

鏡を見ながら丁寧に泡をつけると、真っ白でオバケみたいになって、おもしぃから笑った。
こうしてみると僕の顔って、ゆっけと全然違う。ここも。ここも。
「変なの。」

やだな。欲しいな。僕はゆっけが良いのにな。

パシャパシャ。水で泡を流してく。定期的な音。真っ暗な視界。作る音は全部僕のもの。



怖くなった。
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