まほらば

□発育不全
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ポタポタと水滴を溢すせーちゃん家のお風呂場の蛇口は、数週間前からこの程度の故障中。


せーちゃんは溜め息混じりに『絞まりが悪いわこの豚っ』だなんて怒ってた。



ポタポタ。
髪を洗って蛇口を捻っても続く落下。
見つめてると良くわかんなくなる。




豚。


って誰のことだろなぁ。


なんて。




せーちゃんは
『セックスなんて馬とだって出来るわよ。
僕が男を好きな理由にそんな単純な事は理由になりやしないわ。
女の穴はオナニー。
男の穴はエクスタシーと愛ね。
わかるかしらたろちゃん、愛。』って言ってた。





僕は何となくせーちゃんが言ったその言葉が凄く綺麗だなぁって思った。


綺麗だなぁって思ったからずっと忘れないでいる。



ポタポタ。



床に散らばる水滴。


どっから湧いて出てくるんだろう。


下を向く僕の両端は僕の黒髪で真っ黒に遮断。



でも少し顔を上向ければ ここがせーちゃんの家のお風呂場で
このタイルの一つ一つの窪みがピカピカしてるのは
せーちゃんが毎週手入れをしているからだって言うのがちゃんと見える。


人の居る気配。



それって清潔かもしれない。




蛇口を捻れば、あたたかい水が足元にかかる。


あたたかいのもなんだか他人を思わせる。



そんな気配。








愛。


愛ってなんだろせーちゃん。





愛ってなんだろ、ねぇ


正くん。
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