嗚呼素晴らしき日常

□はじまりの唄
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白く薄く曇る窓ガラスは、外の気温が相当低いんだということを物語っていた。
冷たい指先をこすり合わせながらストーブをつける。暗かった部屋に明かりをともして、いつものようにパソコンのスイッチを入れた。
制服を脱ぎながらふとカレンダーへ目を向ければ、そういえばもうすぐ冬休み。

(冬休み…って言っても、普段と変わんないけどさ)

パソコンの前に座って、いつものように動画サイトへとつなぐ。その日は何となく、普段見ないランキングを見てみようと思った。
上位から眺めていくと…、ふと気になるサムネイルを見つけた。金髪の女の子と男の子が笑顔で写っている。


「ボーカロイド…?」



そういえば最近聞く名前だなあと思いながら再生してみれば、機械的な、しかしそれでいて綺麗な歌声が聞こえてきた。







さあ両手を広げて 大きく空気を吸ってみようよ
こんなにも満ち足りた気持ちになれる
なんて人間は素敵な生き物だろう

くだらない言葉 汚い笑顔
みんな忘れてリラックスしよ
きっと分かるはず こんなにも世界は綺麗だって

君の見ていた一部の世界は
これから君の糧となる

さあ両手を広げて 大きく空気を吸い込もう
ミライに光の橋をかける そのために






(…空気…?)

印象に残ったのは最後のサビの部分。聞き終わってからしばらくぼうっとしていたウチは、その場で大きく深呼吸をしてみた。


すうっと、肺に入ってくるまだ温まりきっていない空気。

なんだか、久しぶりに息を吸ったような気がした。


最近は成績のこととか、初めての一人暮らしに対する不安や、友人関係のいざこざなんかで凄くもやもやしてたんだ。
もう泣いちゃいたいくらい辛かった時もあったし、でも性格上素直に泣くことなんかできなくって…。

それなのに、この歌を聞いたらすっと自分が優しくなれたような気がしたんだ。絞まっていた喉が緩んだみたいに、空気を吸うことができたんだ。



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