† 本編小説・T †

□〈Story−4〉再会
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 街の時計塔が、夕刻の一の鐘を鳴らした。
 
複雑に響き合い、こだましながら朱色の太陽に
向かって消えていく音が自由時間の終焉を
フェリアに告げた。

〈フェリア様〉

「シェリ。アッシュの所へ行く……
一緒に、来てくれるか?」
 
足下の小さいネズミにフェリアはそっと語りかけた。

〈お供させていただきます〉
 
シェリは素早くフェリアの外套に駆け上がると
内ポケットに潜り込んだ。
 

そのまま、夕闇が支配を広げる街を迷うことなく
領主の館へと向かう。

〈フェリア様、どこから屋敷に入る
おつもりですか?〉

「……近くの雑木林に隠し通路がある。
そこから裏庭に入れるはずだ」
 
領主の館の門番らしき男がフェリアたちを見るが
すぐに視線を逸らす。
 
深くかぶったフードの内側にある双眸に
気付くことがあれば引き留めたかも知れないが、
夕暮れの逆光はフェリアを一つの黒い影に
変化させていた。
 

それは人であるのか、それとも人に似た異なる者なの
かすらも解らないほど深く、暗い影。
 

馬車が通ることの出来る道を外れ、低い茂みの
多い雑木林に入ると、フェリアはかぶっていた
フードを背に落とした。

〈よろしいのですか?〉

「ああ、ここまで来たらもう隠す必要もない。
決着を付けるのは──今夜だ」
 
人知れず立つ古びた石碑、風化した文字がフェリアに
何かを語りかける。
 
フェリアはその石碑の裏に回ると体重をかけ、
思い切り押し出す。

 
ミシッ……
ズズ……ズ……


「この怪力に感謝、だな」
 
人間であったときからは考えられない力を得て
いることに対して皮肉げに笑うと、フェリアは
躊躇うことなく狭い縦穴に飛び降りた。
 
シェリは外套の裾を滑るように暗い床に足をつける。

〈ずいぶんと古い通路ですね。崩れないのですか?〉

 磨り減った石床に、シェリは微かな驚きを
秘めて呟いた。

「……百五十年以上前、ここでは戦争があった
そうだ。そのときの緊急避難用通路の一部を
改装した物だと聞いているが……
まあ、大丈夫だろう」
 
枝分かれする通路を躊躇うことなく進んで行く
フェリアは、初めて出会ったときのようにしっかりと
前を向いて歩く。
 

地下墓地から、外に出たときのように。
 

一体、彼女はいくつの闇をくぐるのだろう。
これからの、無限の時間/永遠の夜に。



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