DEATH NOTE
□ニアのおもい
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L
わかっていたんです
私は
私
は
メロが高田を誘拐した。
嫌な感じがする。キラとの直接対決に水を差されたという気持ち以上に嫌な、得体の知れない不安が私の胸にじわりじわりと沁みて来る。私にはそんなものは無いはずなのに、何か大事なものが手をすり抜け壊れてしまうことを危惧している。この感じは以前にも一度あった…あの時はメロがハウスを出て行った。
そんな時でも頭は冷えていて冷静にするべきことは間違いなく判断できていたと思うしそれが私なんだと私は自覚している。本当にするべきことは他にあったのかもしれないが。今も、あの時にも。
「…メロを止めてください」
言った私の声音はいつもと変わりなかったはずだがリドナーの困惑を含んだか細い返事が聞こえた途端、私の胸を侵食していた不安が一気にその手を早めたので私は振り切るように押し付けるように彼女の言葉を遮った。
「してください」
「はい……」
イエスの返答を得てももその頼りない口調からは私の胸を占めようとする暗雲を一掃するどころか僅かな希望さえも見出せず、私は乱暴に通信を切った。
たぶん動けばいいのだろうことはわかっているのに、私は自らは動けない。人を動かすだけだ、私は、いつも。あの時も。何も出来ず。
「…L」
通信の切れた誰とも繋がらない、誰もいない部屋でいつものように問い掛ける。
「あなたならどうしますか?」
それから程無くして、メロは死んだ。
「L。メロが死にました」
『はい』
「キラに殺されました」
『はい、そうですね』
「あなただったらメロを死なせずに済んだでしょうね」
『それはどうでしょう』
「…あなたに言ってなかったことがあります」
『何ですか?』
「私、メロのことが結構好きでした」
『はい』
「驚かないんですね。メロと私は仲が悪かったのに」
『わかってましたよ』
「でもメロは私のことを嫌ってました」
『そんなことはありません』
「嫌ってました。それでいいんです」
『そうですか』
「メロはあなたのことは大好きでしたね」
『はい、そうですね』
「あなたもメロのことが好きなんですね」
『はい、好きですよ』
「私があなただったら良かったのに」
『あなたはあなたです、ニア』
私がLだったら。
メロに好きだと言えたのに。
メロも私を好きになってくれたのに。
あの時。
外から聞こえてきていた子供たちの声が急に遠くなった。
窓から差し込む日差しを避けて座っていたロジャーの部屋の薄暗がりが、夜のように真っ暗になった。
涙を流さず怒鳴り声を上げたメロに遠退いていた声と風景が戻ったが、そうしていた間も私の頭だけはまるで自分のものではないように覚めていた。
せめて、泣けば良かった。
泣けないメロの代わりに、私が泣いてやれば良かった。
あの時、メロと私は同じ気持ちを共有していたのに。
そうしていれば、メロはきっとあの場所を去らなかったのに。
私の傍に居てくれたのに。
私はいつも動くのが怖い。
「L。私はあなたになりたいです…Lになりたい」
そうしたら、きっと、メロは。
『今Lと呼ばれるべき人がいるのなら、それはあなたです。今のLではありません』
違いますL。
私はLの名が欲しいのではなく、Lその人になりたいのです。
でも、L。
私はわかっていたんです、あなたにはなれないことも、あなたを超えられないということも。
メロを失った私があなたを超えられる日は
永遠に来ないでしょう。
それでも私はLとして生きていきます
あなたを汚す今のL…キラに代わって
あなたを超えられなくても
メロのようになれなくても
それでも
私は
あなたになりたかった自分と
あなたとメロの意志だけを継いで
Lとして生きていきます。
私には元々
何も無い
の
だから
『ニア』
頭の中で、Lの声がした。
『どうか、幸せに…』
私の中の幻想のL。
わかっている、Lはもういない。結局私は僅かな思い出の中のLを掻き集めて作った虚像を通して自分自身と対話しているに過ぎないのだ。
それでも私は、Lと
「L…私、あなたが好きです」
口に出した途端意図せず、私の目からぽろりと水滴が零れた。
意味の無い言葉。意味の無い涙。
私は恐ろしく鈍くて今となっては全てが無意味で手遅れだ。
―end.