夕焼け雲の下
□Good buy, the world
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夕焼けと重なるその色が。
泣きたくなるくらい、いとしくて。
練習試合の終わりは、何とも呆気なく訪れた。
相手は無名高。
舐めてかかったつもりなど、まったく無い。
寧ろ後半の途中からは全力以上だった。
更に言うなら、呼人の作戦では「前半から全力を出して相手を突き放し、闘争心を削いでしまおう」というものだったのだ。
それなのに、私たち横浜大栄高校の男子バスケ部は負けた。
点差はそんなになかったものの、無名高に逆転負けという一番嫌な肩書きまで背負わされて。
反省点をあげろといわれても、何も出てこないくらい完璧なプレー。
前半なんかは失点がひとつもないくらいに調子がよくて、29点差にまで追い詰めていた。
呼人の作戦通りだった。
後半が始まるまでは。
ヤックと相手のジャンプボール。
圧倒的な身長差でこちらが勝ち、先制点をとるべく白石くんが走り出す。
ゴール前でフェイントをかけて、後ろに控えていた豹にパスを繰り出した、その瞬間だった。無茶といえば無茶なパスだったかもしれない。
だからこそ彼は、視界の隅に映った鮮やかなオレンジ色を信じて、ボールを投げたのだ。
その無茶ぶりは、逆に言えば完璧でもあったから。
けど現実はそんなに甘くは無かった。
無茶だが完璧ともいえるそのパスに、豹が反応しなかったのだ。
相手の不意をうまくついたパス。
彼が受け取れば、そのまま相手に息つく暇さえ与えずにゴールを決めていただろう。
だがボールは掴まれることなく豹の手の甲に当たり、ファンブルといった形で相手へのゴールを許してしまっていた。
一瞬の出来事だった。
普段じゃ絶対あり得ない豹の失態に、大栄のメンバー全員が動けなくなっていた。
そこからは、早かったのか遅かったのかすら覚えていない。
自分の失敗にやけになった豹が、単独プレーをし始めたのだ。
外野から飛ぶ罵声。
これを機に、次々と点を決めていく相手高。
豹はといえば、白石くんたちの声も届いてないかのようにひとりで走ってはゴールを外す、の繰り返し。
もうスタミナが無い事は明確で、彼を引っ込めるようにと呼人に言ったのだが、何を思ったのか彼は何もせず、ただ黙ってコートの中の試合とは到底思えない試合を見続けていた。
―――ビィィィィ…―――
そして、無残にも試合終了を告げるブザーが鳴り響き、98対105で横浜大栄は負けた。
練習試合では初の、負け試合だった。
『さよなら、世界』
090505