Dream

□奇跡の逆転
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暖かい天候。
涼しいそよ風。
そして聞こえるダムダム音。

もうこれを聞き続けて、かれこれ3時間は経っている気がする。


―ガシャンッ!!!


「だぁぁぁクソッ!!」


ここは体育館だ。
だけど、今日は午前練習だったために皆はもういない。
ここにいるのは、あたしと花園百春だけ。

その百春は、3時間前から一度も休まずにシュートを打ち続けている。
のに、未だに一本も決まっていないという悲惨な事態。

これはどうやって慰めたらいいのかもわからない位、致命的な事だ。
だって彼は、仮にもキャプテンなのに。


「はぁっ、は……〜〜だっ、もっ、なんで入ンねぇんだよッ!!!」
「力入りすぎなのよ」
「ぁあ?!!」
「ぁあ?じゃなくて」


未だに奮闘し続ける彼を見かねて、立ち上がる。
ボールちょうだい、そういって両手を差し出せば、へなちょこパスがあたしへと繰り出された。

なんだこれ、なんだこのパス。

思わず、笑ってしまう。


「くっ、あはは!何このパス!パスもろくにできないの?」
「ちッげぇよ!!手汗で滑ったんだボケッ!!」


嘘だってば。あー楽しい。
百春って、からかい甲斐があるよ。

笑いながら、憤る百春を宥めてドリブルを始めた。
ダムダムという音が、あたし達ふたりしかいない体育館に響く。

あたしはこの音がたまらなく好きだ。
彼方はどれも変わらないっていうかもしれないけど、特に百春の音が一番好き。
大好きなんだよ。


「せぇーのっ、」


ひゅ、
と風を切る音がして、
スパッ、
と何ともいえない心地いい音がした。

見事な3pだ。
これが試合でできれば、あたし達もインターハイにいけたんだけどね。
極度の緊張やサンだからさ。

…言い訳にしか、聞こえないけど。


「すっげ、…」


百春の方を見れば、あたしのシュートに素直に驚いているのか、自分が何度も入らなかったのにあたしが一発で決めたことに驚いているのか、ポカン、と呆けた顔をする百春。

それがなんだか可愛くて、その辺に転がっているボールを掴んで彼へとパスをした。

なんなら、教えてやらないこともない。

なんて調子に乗ってみたりして。


「うわ、なんだよ」
「さっきも言ったけど、力が入りすぎなの」
「ンな事言ってもよ…」
「見て、」


ガッシャンッ
今度は大外れ。

ほらね、力を入れるとボードに当たるかゴールに嫌われるかしかないのよ。

ね?といえば、ほー、なんて感心する百春。
今までどうやって試合をやってきたんだか。


「だから力を抜いて、ゴールだけを目指すの。他の事は考えちゃ駄目。絶対に入れてやるって気持ちが大事」
「それはいつも思ってる」
「んー…じゃあ、想像」
「想像?」


ボールを指で弄んで、彼に笑いかける。
一瞬赤面したのが見えたけど、それは気づかないフリをしてあげた。

頭上に疑問符を浮かべる百春にもう一度ボールをパスして、話を続ける。


「ボールがゴールに入って、皆が喜ぶ姿を想像するの」
「…喜ぶっつか……あいつら、俺がゴールすると天変地異が起こったみたいな反応すんぞ」
「………それは、まぁ、」
「つかさっきから精神論ばっかだし。もっと、なんかこう……」


ダムダム、百春がドリブルをする音が聞こえる。

精神論が嫌だって言われたって、あたしは監督じゃないのよ。

心中で思って、同時に情けなくなってしまった。
こういうとき、奈緒ちゃんならもっといいアドバイスをしてあげられるんだろうな。

百春が求めているような、技術的な言葉を。







「…もういい」









「は?」
「精神論が嫌なら、何も考えずにただバカみたいに打ち続けてたら!?そんなんじゃ一生入らないと思うけど!!!!」
「は?ちょっと待てよ!!何怒って…いでっ!!」


ガンッ
と、足元に転がり落ちていたボールを百春に投げつける。
それが見事に顔面にクリーンヒットして、痛そうだったけど無視して体育館から出て行った。


――なんなのアイツ。
百春のバカッ!!


泣きそうになって、でも泣いてたまるかという気持ちもあったから必死に涙を堪える。

体育館からは離れようとせずに、すぐ外でしゃがみ込んでいるあたしも相当彼が好きなのだと思い知らされて余計悲しくなった。

あたしがいなくなって五分もしないうちに、またもや聞こえるダムダム音。
あたしがいなくても百春はバスケをできるんだ、なんて考えてしまう自分が嫌いだと思った。

ただ、誰もが驚くようなカッコいいシュートを打ってほしいだけなのに。

「空回り……」

どうせあたしにはバスケの技術も、教える技術も持ってませんよ。
ふて腐れて膝に顔を埋めれば、体育館の方からブツブツと聞こえる声。

何事かと思い、百春に気づかれないようにそっと覗き込めば…―――

そこには、ドリブルをしながら目を瞑り、必死に言葉を反芻している彼の姿があった。



「力は抜く、皆の喜ぶ顔を想像する、絶対ェ入る、絶対ェ入れる…っ」


遠目から見たら、なんだかゾンビみたいで怖かったけど。
けど、あたしが言った言葉を何度も繰り返し努力をしようとするその姿に、心底惚れ込んでしまったのも事実で。












太陽みたいな短髪が汗でぬれている。
何度か言葉を繰り返した後、す、と真っ直ぐにゴールを見つめた。

「入れ…――!!!」

悲願するように呟いたかと思うと、高く飛んだ百春は綺麗なフォームでゴールへとボールを放った。



―――っ!!

思わず息をするのも忘れて、その光景に見入る。


ボールが、ゴールへと一直線に向かう。
だがしかし、入るかと思ったボールはボードに当たって、跳ね返ってしまった。


「…やっぱり」

入らないじゃない。
ガッカリして、帰ろうと踵を返した刹那。
「おおおおおおお!!!」という地鳴りのような声が聞こえて、思わず振り返った。

「んなっ…!!」

そこにあったのは、信じられない光景で。

跳ね返ったボールを追うように走る百春。
さっきとは比べ物にならないくらい高く飛んだかと思えば…――


ガッシャンッッッ!!!!


跳ね返って戻ってきたボールを、ゴールが壊れる勢いのダンクで決めてしまっていた。


「う、うそ…」


信じられない光景に、思わず息を呑む。
だって、あの百春が。
3時間もやって一度もゴールできなかった百春が。

普通のシュートではなく、ダンクで決めてしまったのだから。
しかも、かのスラムダンク。
驚かずにはいられない。


「入っ…「入ったぁあああ!!!!」

「…え?」
「あ」


汗まみれのまま後ろを振り返る百春。
思わず叫んでしまったあたしは、赤面するしかなくて。


「帰ったんじゃなかったのかよ…」
「いや、心配で…」

「……………」
「……………」

「お、オメデトウ、」
「おうよ!!」


その時の彼の笑った顔が、いつでも脳裏に焼きついて離れなくなっていた。


奇跡の逆転


_____________

長い上に駄文。
申し訳ないです。

百春くんに限らず、一度外れたボールをダンクで戻す姿がカッコよすぎて大好きです。


090504



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