りくえすと

□作戦u
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これは、他人にしてみたらとるに足らない、ごく小さい一歩かもしれない。












「あ!危な…」

ばしゃ!
















…ほんの十五分ほど前の話。


一階の渡り廊下を歩いていたら、ホースで水をかけられました。
最初いじめかと思った。

でも水をかけたのは、



「…悪い。
謙也くんが水遊びなんしよう言うから…」



「ちゃうわ!
お前がいきなり水かけてくるからこないなことになったんやろが!」





…今現在片思い中の相手でした。



「謙也くん…それはひどいんとちゃう?
水かけといてあやまりもせんと、怒鳴りつけるなんて」



「あ…ち、ちゃうねん!
ホンマごめんな?わざとやなくて…
…て、これこそちゃうやろ!
水かけたんお前やし!」



テンポのいい漫才みたいな二人のやりとりに若干ついていけず、ぼっと立ち尽くすあたし。









そして今。








「ホンマ悪かったな、今謙也くんと荷物取ってくるから待っててや。
あと保健室からドライヤー借りてくるわ。
あ、そこ俺の席やから座っとってええで」



『あ、うん』



それだけ言って、財前くんは教室から出て行ってしまった。
普段あんまり入ったことのない7組の教室。
あたしの隣のクラス。

財前くんはこっちに友達がいるみたいで昼休みとかよく来てるけど、あたしのことは知らないだろうな。

でももしかしたら顔くらいは…
…て、そんな期待。


むしろ今、初めて話したよ。
話したことないのに片思いとか変な話だけど、嬉しくて心臓飛び出そう。


一緒にいたのは確か、三年生の忍足先輩。
金色の髪が目立つから、名前くらいは知ってる。
もちろん話したことなんてなかったけど。









「借りてきたで、ドライヤー。
保健室やからこんなんしかなかってんけど、ええ?」



テニスバッグをかついだ財前くんが再び教室に入ってきた。
手には折りたたみ式のドライヤー。



『あ、うん!
ぜんぜんいいよ!
ていうか、ドライヤーも良かったのに』



「アカンやろ、風邪引くわ。
そうなったら俺も申し訳ないし」



『あ、そかそか…』



素直に手渡されたドライヤーを手にとり、コードをつなぐ。
あ、これマイナスイオンでるんじゃん。
まったく悪くない。


そうしているうちに、なんだかテニスバッグの中をごそごそする財前くん。



「あと、これ」



そしてひょいと黄色い物体を投げられる。
それは空中で広がって、ばさりとあたしの頭へ。



『ぶわ!なにこれ?』



「俺のジャージ。
服濡れて寒いやろし…羽織っとけば?」



『…あ、りがと…』



…なにこれ。
財前くん優しっ!
…あ、それはあたしが被害者だからか。

自分で考えといて勝手に落胆。
馬鹿だ。


ていうかていうか!
財前くんのジャージ!


…て、なんだか変態チックな方向に行っちゃいそうなので、とりあえず着て前を向こう。





「…俺どないすればええ?
あったかい飲み物でも買ってこよか」



『あっ、もう……』



“もう帰ってもいいよ”と言いかけてぴたりと止まった。
よく考えろあたし…
これから先、今以上に財前くんと仲良くなれる日なんてくるのかな?
今って実は、すごいチャンスなんじゃ…






『…それは大丈夫だけど、
…ひとつお願いがあります』



「…何?」



『髪…かわかして?』



…言った!
よくよく考えれば、ほぼ初対面のひとにするお願いじゃないけど、この際仕方ない!


財前くんは一瞬びっくりしたような顔をしたけど、すぐいつも通りになって、



「…ええけど」



ぼそり、つぶやいた。






「ドライでええ?
いつもセットでやっとる?」



『あ、いいよいいよ!
もうドライでぶあーっと!』



「…おん」



あ、今ちょっと、笑った。
ていうかあたし今、表現がオヤジ臭かったね。…恥ずかしい。



「あんた、クラス隣やんな?」



『え…うん!』



「ちょ、動くなや」



…知ってたんだ。
それだけであたしのテンションは上がる。

もうどんだけ好きなの…



『…あ、そういえば、財前くん部活は?
今更だけど…大丈夫?』



「……あー」



髪をなでる手が止まる。
そういえば忍足先輩いないし、部活の日だったのかな。



「…ええよ、別に。
どうせ今日自主練やし、監督来んし」



『え、そうなの?』



それは…いいのか?



『…部活行ってもいいよ?』



「え、何、急に」



『や…財前くんテニスすごいうまいって聞いたから…休んじゃ駄目かな、と』



「別にええて。
髪乾いたらすぐ行くし。
先輩ん中にはほとんど部活なん出ん人もおるから大丈夫。
まあ、そいつも立派にレギュラーやけど」



『ええ?!
部活出ないのにレギュラーなの?!
…すごいね』



世の中には天才も居るんだね。














「はい、終わり」



『…っあ、ありがとう!』



うおう…危ない危ない、あんまり気持ちよくて軽く寝てたよ。



『うわーさらさらー……財前くん髪乾かすのうまいね』



「…おおきに。
俺部活行くけど、もうええ?」



『あっうん!
ほんとありがとう!』



荷物をつかんで出て行こうとする財前くんを教室の出口まで送り、その背中を見つめる。



『…あっ!』



急に大声で叫ぶあたし。
振り返る財前くん。



「…何?」



『あ、の…!
最後にもういっこ!』



「…言うてみ」



無表情の財前くん。
やべ、これ言ったらもう呆れられるかもしれない。
ああでも、髪かわかしてって言った時点で呆れられてるか。

…じゃあもうどうだっていいや。









『明日から…
明日から名前で呼んでいいですか!』










あたしは顔を真っ赤にして、廊下にも関わらず叫んだ。



財前くんは相変わらず顔色ひとつ変えず、







「どうぞ」







これは、他人にしてみたらとるに足らない、ごく小さい一歩かもしれない。



でもあたしにとっては、とても大きな一歩なのだ。













髪かわかして




(明日あいさつとかしてもいいのかな…
てゆうか!
髪、なでてもらっちゃったよ…!)

(…俺も名前で呼んだろ。
あいさつとかしたろ。
…呼び捨てで。)











友達がいるから、
っていうのはただの口実。
ほんとは片思いのあの子に会いに。

友情出演で忍足先輩と
千歳先輩\(^o^)/
そして後半おねだり関係ねえorz


優しい財前くんとかどうですか(゚ω゚)?





ThaNk Y0u F0R ReQueSt!

2009.11.12 Dear:桃子さま

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