りくえすと

□作戦k
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休日に一泊二日で部活の合宿。


あたしはマネージャーだけど、これを結構楽しみにしていた。
練習は順調に進んだ。

まあそのあとも色々あったけど、これは、さああとは寝るだけ!となってからの話。









「23時消灯やからな!
みんな時間なったら自分らの部屋戻れよ!」



白石が今日最後の集会でみんなに言う。


そうか…消灯は23時なのか。
これオサムとか確認しに来るのかな。
来たらさすがにやだな。




そして自分の部屋に戻る。

あたしこの部活で紅一点、部屋はやっぱり一人部屋。

ゆえに、部屋に戻るとしんとした空気でなんだか寂しい。



そこで、朝は気付かなかったものがこの部屋にあることに気付いた。






…掛け軸。





まあ和室だし、自然と言っちゃ自然。
…絵柄以外は。

その掛け軸、女の人の絵が描かれている。

しかしその女の人、………顔がない。


のっへらぼうを描いたのかそれとも、観光地に行くと必ずと言っていいほど設置されている、「ここに顔を入れて写真を撮ってね!」っていうアレなのか。


後者はあたしなりの冗談である。
なんだか無性に怖くなって、財布とケータイを引っ付かんで外に出た。


とりあえず、なんか冷たい飲み物でも買って気を紛らわそう。


あたしは一階の自販機のところに行った。





「あら!」



『あ…こんばんは。お疲れ様です』



そこで、今帰りらしい、合宿所の食堂のおばちゃんに会った。



「こんばんは!
ジュースでも買いに来たん?」



『あ、はい』



「23時消灯やってね。
あんた何号室?」



『えと…203号室です』



そう言うと、おばちゃんの顔が曇った。



「…ああ……あの部屋」



明らかに今目線そらされた。
めっちゃ不自然だ。
なんだ、何かあるのか、203号室!



『な、なんですか?』



「いや、何でも!
それじゃ、あたし帰るわ!
頑張ってな!」



おばちゃんはあたしの前からそそくさと去っていった。

顔がひきつっていた。

ていうか、「頑張ってな!」って、合宿を頑張れって意味ですか?
それとも、あの部屋で過ごすのを頑張れって意味ですか?



…超こわい。




部屋に戻ってみると、中からガタンガタンと音がした。


…ちゃんと鍵かけて出たのに?


あたしはたまらなく怖くなって、好きな人の部屋に助けを求めに走った。






『千歳!千歳!
助けて千歳!開けてー!』



映画のワンシーンのように、馬鹿みたいにドンドン部屋のドアを叩く。

隣の部屋から「うるせー!」と聞こえたが気にしない。


少ししてから、なんかちょっと不機嫌な千歳が出てきた。



「……何ね」



『助けて!部屋こわい!助けて!』



ほぼ単語だけで話すあたしをちらりと一瞥して、ドアを閉めようとする千歳。

それを必死に制して、千歳を部屋から引っ張り出すのに成功。

あ、今千歳の後ろに、ベッドに腰掛けて素晴らしい笑顔でこっちを見る白石が見えた。

きっと寝てたんだ。
寝てるとこあたしに起こされたんだ。

おばけと同じくらい白石が恐ろしいと思った。







「何ね、そんな引っ張らんと」



『いいから入って!座って!』



千歳はしぶしぶ部屋に入り、畳の上に座るかと思われたが何故かあたしの布団の上に座った。

…そこじゃねえよ。



「…何が怖いと?」



『あの掛け軸がね、ガタンガタンいってね、』



話しているうちにもこっくりこっくりし始める千歳。

頼むからその上では寝ないでもらいたい。



「…大丈夫たい。
ほら、電気消せば何も見えんばってん」



勝手にぱちんぱちんと電気のひもを引っ張り、部屋を暗黒の世界へと変える。



『やだ!やだ!
こわいよ!どこだよ千歳!!』



「じゃあ姿が見えんようになったところで、俺は帰るばってん」



『やめて!帰んないで!
あっそうだ!
じゃああたしが寝るまででいいからそこにいて!』



「…えー」



顔をゆがませる千歳。
えーってかわいいなオイ。

そういいながら布団の上からどいた。


だんだん目がなれてきて、暗い中でも千歳のだいたいの居場所が分かってきた。
布団に横になるあたしの右側に座っている。


ていうか…………眠れない。

ちょっとしてから、 千歳が立ち上がった。
あたしまだ寝てないよ。

だからぎゅうと千歳の足首を掴んだらすごいびくってなった。



『……まだねてない』



「………………」



『こわい』



千歳がまた隣に座り直す。
そのとき。



ガタガタガタ!



どこからか音がした。



『やー!
やだやだ!
やっぱりなんかいるよこの部屋!』



「眠い…帰ってもよかと?」



『Σ今の音聞いてもあたしを見捨てるの?!』



「心配せんでもよかばい。
お前ならいける」



「何がだよ!!
ていうかさ、眠いんだったらほら!
ここで寝ればいいじゃん!
そうすればあたしも千歳も満足!
添い寝して!」



少しの沈黙。
…あーやばい。
気が動転してつい言っちゃったけど、冷静に考えるとちょっと変態じゃない?
引かれちゃったかな…



若干後悔していたそのとき。




ぱさっ



布団がめくられた。
何かと思っているうちにあったかいものが体にくっつく。



『…ちとせ?』



「……………………」



無言でばさりと布団を引っ張られる。



「…自分で言い出したばってん、あとで後悔しても知らんと。
この布団小さかね…」



…それは布団が小さいんじゃなくて、千歳が大きいだけだよね。


…あたし今、千歳と寝てる。
いや変な意味じゃなくて。

それからどれくらい時間が経ったか。
おばけのことなんかいつの間にか忘れちゃった。
すごい今さらだけど、千歳が同じ布団で寝てると思うと眠れない。

…逆効果だったかも。




そしてあたしが一人でどきどきしてる間に隣からは寝息が聞こえてきて、あたしも早く寝なきゃ…とか思ってたら気づけば夢の中で。











『…う…さむっ』



まくらもとのケータイから木村カエラの歌が流れ、朝を知らせる。
時刻は6時。
昨日自分でアラームをセットした時間。



むくりと起き上がれば、何か物足りない。



…布団が…ない。

ふと隣を見れば、あたしと反対の方向を向いて眠る千歳。

その体はあたしの布団をぐるぐると巻き込んでいた。















添い寝して




(あ、食堂のおばさん)

(あらおはようさん!
昨日大丈夫やった?
あの部屋ねずみがおってねー!
駆除頼みたいんやけど、
ここの所有者さんお金
出したがらんくて!)

(……え?)








こーいうオチ\(^o^)/





ThaNk Y0u F0R ReQueSt!

2009.11.14 Dear:佳澄さま

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