部活で帰る時間が遅くなった日の帰り道。
辺りはすでに薄暗い。
でも、暗くなって空が紫色になるこの時期の夕焼けを見るのは好きだから、別にこわいことはない。
むしろ楽しい。
イヤホンから流れてくる音楽を聞きながら、ゆっくり、バス停まで歩く。
バスが来るまであと30分弱。
学校の下校時刻はもうとっくに過ぎた。
だから学校を追い出されたんだけど。
バスを待つのはあたし一人だった。
そりゃそうだ、下校時刻ぴったりのバスはもう行ってしまったんだから。
停留所のベンチにどさ、と荷物を置いて、その隣に座る。
春先とはいえ、まだ肌寒い。
時折吹く冷たい風に耐える。
空を見上げたら、もう夕日は沈んで、空は真っ黒に染まっていた。
「…こんな時間に何しとると?」
ひょ、と真っ暗なあたしの視界に顔をのぞかせたのは、あたしの好きな人だった。
『バス待ってるの』
イヤホンを外しながら言う。
不意打ちだったけど、うれしい。
「もう七時半過ぎたい。
こんな時間まで部活やっとると?」
千歳は不思議な顔をして、あたしの顔を見る。
『コンビニ寄ってたら遅くなっちゃった。
でもわりといつもこんなかんじだよ』
「…こんな真っ暗な道で、こわくなかと?」
『こわくないよ。
それに、さっきまで夕焼けがきれいだったし。
それに、そこに街灯もいっこあるし、おばけが出たとかも聞かないしさ』
まあ確かに暗いと言えば暗いけど。
あ、ここでこわいとか言っとけば良かったのかな?
かわいい、とか、思ったかな?
「…めずらしいやつたいね。
俺はおばけとか、そーいうことを言っとるんじゃなくて……まあよか。
気をつけて帰りなっせ」
千歳が顔の横で手を振って、離れていく。
ああ、出来ればまだそばに居てほしいとか思ったりもしたけど、千歳の家も結構遠いんだっけ。
ま、仕方ないよね…
外したイヤホンを再びつけて、また音楽を聞きながら空を見上げる。
すこしたって、またひょいと同じ顔があたしの顔を覗き込む。
『…千歳?
なんで?戻ってきたの?』
急いでイヤホンを外して問いかける。
「…一人で家に居ってもつまらんけん、バスが来るまでの暇つぶしたい」
そう言ってあたしの隣に腰を下ろした。
木製のベンチがギ、と軋む。
もしかして夜道のあたしを心配して…
…とかないな。うん、ない!
千歳がそんなに優しいはずない!
…とか言いながら、うれしくて顔に熱が集まるのを感じた。
ああ、今が暗くてよかった!
『…千歳はさ、部活だったの?』
「いや、テニス部で夕飯食べに行った帰りたい」
『…たのしそうだね』
白石くんとか忍足くんとか、二年生のピアスの子とか、あの小さい赤髪の子とかがみんなで騒いでる中で、逆に千歳は静かに食べているところを想像したら、なんだかおかしくてちょっと笑ってしまった。
千歳は遠い目をしている。
『…寒いね。
もうすぐ春なのに』
言いながら勇気を出して、千歳の大きな手をつついてみる。
そうしたら、今度はその大きな手があたしのほうに伸びてきて、ぽん、とあたしの手の上に重なった。
また顔が熱くなる。
まさかこうなるとは思わなかったから。
『…ち、千歳の手、あったかい、ね』
「お前の手は氷みたいっちゃね」
そこまで冷たいだろうか。
それからお互い何も話さなかった。
というか、あたしが何も話せなかった。
もうどうしたらいいかわからなくて。
でも、不思議と居心地は悪くなかった。
むしろずっとそうしていたかった。
そのうちに、向こうから車の走る音が聞こえてきた。
音で、結構大きい車だとわかる。
…バスだ。
ぎゅ、と指を絡ませる。
ぷしゅ、と目の前でバスが止まり、ドアが開く。
降りる人は、今日はいない。
『…バス来ちゃった。
もう行くね。
千歳の手あったかいから…まだ触ってたかった。
ばいばい』
するりと、絡めた指が離れる。
そのまま、バスに乗るべく片足をかけた。
そのとき。
『…っわ、あ!』
突然後ろから腕をつかまれ、後ろに引っ張られる。
「…乗らないの?」
「乗せません」
『え?!ちょ…』
千歳がにっこり笑って運転手さんに言う。
運転手さんも呆れたように笑って、バスのドアが閉まった。
『あー…』
バスがどんどん遠くなる。
あたしはこの時間のバスさえも逃してしまったのだ。
くるりと後ろを振り向くと、あたしの腕をつかんだまま、バスを見つめる千歳が、なんだか満足げに見えた。
「…俺はまだばいばいなんて言ってなかとよ」
『…横暴』
彼の手は、それでもやっぱりあったかかった。
まだ触れてたいの
(もし明日風邪引いたらさ、
千歳のせいだからね)
(なんば言うとると、
バス乗らんかったお前が悪か)
(…………)
最後の千歳のセリフがいまいち(∵`)
こんなかんじの歌、初音ミクが歌ってそうだなーと思いながら書きました←
ThaNk Y0u F0R ReQueSt!
2010.03.14 Dear:佳澄さま