「もらい」
おひるごはんの、今購買で一番人気のサクサクメロンパン。
購買での激戦を勝ち抜いて苦労して手に入れた。
それなのに一口も食べないうちに、
『あ、あたしのメロンパン…返しt「いやや」……』
…上からひらひらと手が伸びてきたと思ったら、それが消えた。
犯人はこの人、あたしの左隣の席の財前くん。
…あたしの、好きな人。
もぐもぐとメロンパンをほおばりながら答える。
『…あの、あたし今日それだけなんだけど…』
「しらん」
あうう、とがっくりうなだれる。
サクサクメロンパン、
楽しみにしてたのに。
よくこんなふうにちょっとしたいじわる…というかもはや嫌がらせに近いことをされる。
いや、かまってもらえないよりはいいけど、たまに本気の悪意を感じるようなときがある。
『……………』
「…しゃーないな、購買でなんか買ったるわ」
スタスタと教室のドアに向かって歩いていく財前くん。
『…ほ、ほんと?!』
「おん」
短く返事をした財前くん。
急いで椅子から立ち上がる。
あ、飲み物もほしいな。
自分の小銭入れを片手に財前のあとを追いかけた。
購買に行く途中。
「それ、持ったる」
あたしのくまさんの小銭入れを指差して言う。
『え、…い、いらない…です』
「盗ったりせんから。ホンマに」
『………………』
おずおずと小銭入れを差し出すも、思いとどまり引っ込める。
『やっぱりいいよ。
自分でもっとくよ』
「ええから」
ひょいとあたしの手から小銭入れを取り上げる。
それはもう無理矢理。
『あっ!ちょ…』
返して、と言い掛けるが、財前はスタスタと先を歩いていってしまう。
仕方なく、あたしもそれを小走りで追いかける。
なんだかもう、おごる気があるのかどうかさえあやしくなってくる。
購買に着き、売れ残ったパンたちの前で本日二度目の買い物をする。
『チョコチップください!』
「俺ラスク。会計一緒で」
この人はまだ食べるのか、と彼の食欲に驚きながらも、会計は財前くんに任せて自販機のところへ。
…あ、あたしの好きなやつ売り切れてる。
他に飲みたいやつもないなあ…
…やっぱり今日はやめとこう。
飲み物はあきらめて財前くんのところへ戻る。
自販機の脇から顔を出したら、財前くんがあたしの小銭入れをポケットにしまったのが見えた。
…え、まさか。
急いで彼のところへ駆け戻る。
「戻るで」
『ま、まって財前くん、小銭入れ返して』
再び小銭入れをポケットから出して、ぽい、とそれをあたしに放ってよこす。
すぐさまファスナーを開けて、中身の確認。
『…少ない』
中身が300円ほど消失していた。
ばっと顔を上げるも、すでに財前くんは遠くを歩いていた。
走って追いかける。
『ひ、ひどいよ!
おごるって言ったのに、自分のまで買って』
「あの場に居らんかったお前が悪い」
パンの入った袋ががさがさ揺れる。
『…もう絶対財前くんとはパン買いに行かない』
「ほな今度は学食で」
『行かないよ!』
鋭いツッコミをいれると、財前くんはふ、と軽く笑った。
それを見てなんだかきゅんとしたけど、小銭入れの中身を見るとやっぱりそれも薄らぐ。
心なしか、小銭入れのくまさんも泣いている気がした。
教室に戻ると、授業が始まる五分前だった。
…結局あたし、ごはん食べれてないじゃん…
ぐうと鳴りそうなお腹にぺちんと喝を入れて、席についた。
次の授業は、数学…
…あれ?
なんでみんな国語の道具出してるの?
…あれ?
数学出してるのあたしだけ?
『ざざざ財前くん!四限って何?!』
「国語。お前昨日授業変更、寝てて聞いてへんかったやろ」
なんで見てるのよ…と思いながらも、バッグの中を確認して焦る焦る。
国語なんて持ってきてない。
そのうちにチャイムが鳴って、先生が入ってくる。
…どうしよう。
『…財前くん…あの、教科書みせt「嫌や」…へ』
予想外の言葉に間抜けな声が出る。
『なっなんで?!
あたし国語わすれて…』
「嫌ったら嫌や」
断固として首を縦に振らない財前くん。
…何、あたし何かした?
いやむしろあたしが色々されてると思うんだけども。
『…お願いします』
「アカン」
『一生のお願い!』
「いやや」
『………………』
小声でお願いするも、拒否される。
なんであたし、こんな嫌がられてるの?
ほんとにあたし、何かした?
もう…意味わかんない。
『…いつもあたしのこと振り回すくせに、あたしのお願いは聞いてくれないんだね』
「…………………」
ほっぺたをぽろ、と涙が伝い落ちた。
なんだかこんなに嫌われてると思ったら、悲しくて仕方なくなった。
授業中なのに。
それなのに、あたしが泣いているのを見ても、財前くんは無言。
『…勝手すぎるよ。
あたしが嫌いならもう話しかけないで、いじわるしないで…』
右手で涙を拭った。
「…教科書」
今頃になって、財前くんがそんなことを言ってくる。
本当に今更だ。
『…いい。山口くんに見せてもらう…』
右隣の席の山口くんの方を向く。
そのとき。
ぱし。
「アカン」
財前くんの目がまっすぐあたしを見て言う。
不覚にもあたしも見つめてしまった。
『…なんで』
「俺が嫌やから」
ガタガタと机を動かして、ぴったりとあたしの机と合わせる。
そしてその間には教科書。
『…いまさら』
「…すまん」
一言あやまってこっちを見た。
「嫌がらせやなくて…
…その反対や」
『…え』
いじわるしないで
(そそそそれって)
(…やっぱ何でもないわ、忘れろや)
ラスト財前が素直すぎる(・・`)
席は窓側の一番後ろの席って設定でおねがいします←
ThaNk Y0u F0R ReQueSt!
2009.03.19 Dear:美月瑠葵さま