02/15の日記

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変わり映えのしない
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妹太+閻→鬼+曽





「ありがとう、曽良」

銀髪と褐色の肌を持つ些か不良染みた青年がそう言って無邪気にはにかめば、曽良と呼ばれた色白で玲瓏たる面の青年は抑揚もなく無表情に返す。

「何を言ってるんです?礼を言われる程のことなどしていませんよ」

その無表情は何時までも無表情ではあるが、その瞳の奥には微かに優しい色が帯びている。まるで、何処か二人きりの親密で微笑ましい世界がそこにはあるようだ。








「…相変わらず仲良いんだね」





死人を思わせる程白い肌に少し長めの漆黒の髪が揺れ、紅い瞳が恨みがましい不機嫌な呟きを発する。その声の主は、僕の左隣の閻魔先輩のもので、僕はこちらも相変わらずだと思った。

徐に見上げた果てのない天井は、快晴。

せっかくの良い天気なんだから、そう決まりきったことに律儀に不機嫌にならなくても、と思わずにはいられないのだが、当人はそうも言ってられないのだろう。

「ねぇねぇ、鬼男君っ、ソレ一口ちょうだいっ」

既に外側からでは崩すことの出来ないだろう鉄壁の世界へ、めげない閻魔先輩は今日も果敢に挑んでいく。
そんな閻魔先輩をちらっと嫌そうに見ながらも、僕の同級生で閻魔先輩の思い人である鬼男は食べかけのパンを差し出しかける。
彼は外見に違う心根の優しい青年だ。

「鬼男」

…これもお決まりだろう。
当然のように二人の間に座る麗しい御人、曽良君からの待ったの声が凛と響き、鬼男の差し出しかけていた手が止まる。
何の代わり映えもしない、いつも通りの光景だ。

「きちんと食べないと午後の授業、保ちませんよ。閻魔先輩はご自分の分があるんですから、後輩にたからないでください…はしたない」
「は、はしたないとか、河合君が微妙に辛辣っ」

鬼男と幼なじみである曽良君は、懇意の松尾先生に向ける異常な加虐行為以外は至って真面目で冷静沈着な、常に無表情を張り付けた青年である。しかし、鬼男が傍にいる時だけは普段の姿が嘘のように、見事なまでの過保護ぶりを発揮し、敵なしの強者になる。(まぁ、普段も負け知らずなことに変わりはないのだけれど)
一方、曽良君の過保護によって守られている鬼男は、根の生真面目さに上乗せするように…良く言えば無垢で、閻魔先輩の気持ちには全くもって気付いていないようだ。
結果して「幼なじみによく叱られている先輩」程度の認識でもって、今日も落ち込む閻魔先輩を眺めながら黙々と昼食を取っている。

…閻魔先輩がいっそ哀れだ。

「妹子っ、私にもソレくれっ」
「…どうぞ」

僕の右隣には、この幼い昼ドラのような騒ぎを全く気にしていないもう一人の先輩である太子がいて、にこにこと飲み物を催促してくる。自分で買ってくればいいものを、いつも理不尽なまでに催促してくる。本人は懐いている延長線上の行動なのだろう。
しかし、惚れた弱みか、横暴な催促でさえ可愛いと感じてしまう僕は、そんな自分が憎いので、最近は催促が重なる前に素直に譲っている。
僕って実は健気なんだろうか?それとも彼が策士なのだろうか?

「妹子っ」
「なんです?」
「良い天気だなっ」

また、にこり。
そうですね、と小さく返せば、またまたにこにこしながら代わり映えのしない催促をする。
うん、策士じゃない。立派な天然物だ。

「じゃぁ、お昼寝しよう」
「…食べてすぐ寝たら牛になりますよ」
「私は大丈夫だっ」

私は、などと根拠のない理由は非常に馬鹿げている。そして、それでもいいか、などと思う僕も大概馬鹿げている。

「ほらっ、妹子もっ」

そうやってにこにこしてれば何でも許されると思うなよ、という辛辣な言葉を飲み込み、隣に寝転がる。僕に拒否権はあってないようなものなのだから。

「…仕方ないですね」

一応の足掻きとして憎まれ口を叩くのも毎度のことで、既に見抜かれているらしく、早々と寝息が聞こえてくる。
普段の太子は奇行が目立つ足りない頭ながら、それなりに他人を気遣う性質のせいで上手く眠れないことの方が多いようだが、僕の隣で眠る時の太子はいつも、おやすみ三秒。
そんなことに少しの優越感を感じて、そして親じゃないんだぞ、と少しがっかりもする。彼が複雑な家庭環境を抱えているのは十分承知しているので、絶対に口になど出したりしないが、他に何と表現したらいいのかわからないし、実際、僕の隣で眠る太子は親に守られて眠る小動物みたいなので、言ったら言ったで許されるのかもしれない。

少し、愛しい彼から視線を外し、眠る前にもう一度、と何となく確認した周囲の様子は、やはり代わり映えがない。

視界の端で鬼男が眠そうに目を擦っている。どうやら彼も昼寝をしたいらしいが、きっと今日も無理だろう。
昼食の後に眠くなるのは太子も彼も一緒だけれど、太子と違って彼の周囲は彼を眠らせてはくれない。やれ、お昼寝なら一緒にしようだとか、やれ、寝相が悪そうな先輩に傍に居られたら迷惑なので寝るなら離れて下さいだとか…
そんな自分に関係する騒ぎが行われる中で眠ってしまえる程、彼は薄情でも無責任でもないから、今日も彼は眠い目を擦りながら彼自身には想像もつかない理由によって勃発している喧嘩の仲裁をするのだろう。



…嗚呼、煩い。

互いに思い合っているからこその喧嘩とわかっている方としては、つまらない痴話喧嘩でしかなく、犬も喰わない領域だ。昼食後のだらけた思考にとって意味もなく、煩わしい騒ぎなのである。
閻魔先輩の気持ちも、曽良君の気持ちもわかるけど、もう少し静かにしてくれないと太子が起きちゃうんじゃないかな、と無駄なことをぼんやりと考える。


閻魔先輩、鬼男への愛の深さは本人以外は十分過ぎるくらいにわかっていますから、あまり騒がないで下さい。
それからですね、そろそろ鬼男にセーラー服を勧めるのを諦めてくれませんかね?先輩は逆に羨ましがりそうな気がして苛つくので言わなかったんですが、鬼男の先輩への愚痴がみんな僕に吐き出されてるんですよ。知ってました?

曽良君、閻魔先輩は回復力が尋常じゃないから断罪しても無駄ですよ。もっと、こう、スゴいヤツでないと無駄な気がする。断罪の上ゆくモノなんてそうそうないんだろうけど。
あっ、だからって松尾先生にあたっちゃダメですからね?前に断罪された時に、痛い…でも気持ちいいかもしれないって言いながら幸せ噛み締めてましたから。


そこまで一通り考え終えてみても、三人が静まる様子はなく、そっと息を吐き出した。
ちらっと隣の太子を見れば、特に不満もないようで、夢の住人を満喫しているようだ。この騒ぎの中よく眠れるな、などと思いつつ、少しだけ髪を撫でてやれば、くすぐったいのか身じろぐ。でも、身じろぐだけで、その表情はけして嫌がっている風ではない。
僕のお姫様はどうやらかなりの安眠が出来ているようだ。

向こうのお姫様が安眠出来るのは何時になるやら、そんなことを頭の端の方で考えながら、眩しい青を遮る為に、瞼を下ろした。







…どうせ寝られやしないんだろうケド。















学パロ昼食タイム
妹子視点

曽良は鬼男に対して恋慕は全くありません。余りある思慕(私募)が過保護行為に走らせているだけです


 

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