03/16の日記

23:50
永久に染み入る闇色の
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飛鳥(閻鬼)





「なぁ…妹子」


二人で帰ろう、そう言いだしたはずの先輩は待ち合わせ場所に来ないで、誰もいない教室で、夕日を浴びていた。

深い深い黄昏を迎える空の、夕日を浴びる先輩の、長々と待たせた不躾を叱りつけようとしていた僕だが、何も言えなかった。
先輩が夕日に溺れているみたいな、そんな表情をしていたからだ。

何も言えないでいた僕に、先輩は、太子は言った。


「閻魔は鬼男が好きなんだって」


その言葉は、酷く不自然な気がした。
閻魔先輩を知る人間ならば、誰もが知っているはずの、当たり前なことだったからだ。わざわざ、今この場で言い出さねばならないようなことではなかったからだ。

何もわからないでいる僕は、先輩に、太子に言った。


「…何を今更。一目でわかりますが、それが何か?」

「だろ?だけど鬼男がいらないって言ったら」


夕日より寂し気な顔で先輩は、太子は、アンタは続けた。
僕はそれが、怖かった。




「ソレでいいんだって」


馬鹿野郎、怒鳴りつけてやりたい心は宙に霧散して、僕の心臓を抉る。世界を染め上げる夕日のせいで流れる透明な血の心地良さに嘲笑えたけど、口元も脳髄も、ぴくりとも動かなかった。


「そんなわけないでしょ。鬼男にアレだけべったりでおいて」

「ん、でさ、はっきり聞いてみたんだ」


何でって、さ、

と先輩は、太子は、アンタは言った。

そこに続く言葉なんか想像もつかないけど、僕は聞きたくなんかなかった。


太子の、アンタの薄い唇が動く。

そしたら、


太子の、アンタの丸い瞳が潤む。

そしたら、






「そしたら、(神様だから)、だって」


嗚呼、夕日が落ちていく。
くるくる、と地球は回転、墜ちていく。


僕の音も、ぽつりと、堕ちる。


「…馬鹿ですね」

「だろ?」


嘘吐き、本当に嘘吐き。
拾えやしない言の葉が、涙みたいに、胸に積もる。


嗚呼、アンタが好き
アンタだけが好き


アンタだけが誰よりも好き



アンタだけが苦しいくらい何よりも好き


自我の崩壊
アイデンティティの欠如
夕闇に降りた矛盾は刹那的


そう、
どうせ手放すことになるなら
誰も愛したくなんてない


どうせ手離すことになるのなら



何も知りたくなんかない











「神様だって淋しいのに」




((…そっちか
 本当に   アンタらしいよ))


そう思うと同時に、アンタの綺麗で幼い横顔を見ながら、僕は少し泣きたくなった。


神様だって淋しい?







寂しいのは




アンタでしょう?























手放すことも出来ないで
手離すことに夢をみて
ただ、求めることが怖かった











汚れて穢れて、何も手に入れることを許されない
我々は、そんな私になりたいのだ



 

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