06/20の日記

12:58
飛ぶ電波を掴むのも、握る手と其の心
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「はい、はい。あっ、そうだったんですか?わかりました。じゃ、動かないで待ってますね」


最後の一人に連絡と待ち合わせの約束をして、携帯電話を上着の内側に押し込んだ。個性的な生徒会メンバーに連絡をつけるのは唯一の常識人である僕の役目だった。

えっ?鬼男と曽良くん?
そうだね。彼等も常識人だよね、うん。ちょっと語弊があったかも。

つまり、僕が言いたかったのは連絡係になれるような常識人ってことだったんだ。だって曽良くんは先輩組に連絡するのすっごく嫌そうだし(僕だって躊躇するくらいだから彼の嫌がり方は半端じゃない)、鬼男は閻魔先輩が引きずり回すから連絡係には向いていない(僕と変わらない程鬼男も抵抗しているみたいだけど、如何せん閻魔先輩の回復力は並みじゃない。曽良くんの断罪を始終敵に回してるだけあるよね)。

結果して、アホの先輩組には絶対に任せられないことからもわかるように、僕しか連絡係に向く常識人がいないってわけなんだ。


そういうわけで、最後の一人である閻魔先輩に連絡を取り終わったんだけど、ふと気が付いた。


僕、閻魔先輩の電話番号しか知らないや。


さして不便もなかったし、周囲に変わり者しかいないから全く気にしていなかったけど、いざ気付いてしまえば、何だか変な感じがする。

無意識に首を傾げた僕に、どうした、お芋、という大変不名誉な声が掛かった。相手はアホの太子と言えど先輩なので不名誉な言葉には無視を決め込み、疑問を伝えると、答えはすんなりと返ってきた。


「閻魔はメアド教えない主義なんだよ」


にっこりと、太子は笑って言った。相変わらず奇行に走らければ可愛い人だな…、と思う。じゃないだろ、僕。


「何故メアド教えないんですか?連絡困りません?」


至極当然の質問に太子は更に笑みを深めた。なんだか知らないけれど、とても優しい笑みだ。


「メールって電話と違って履歴に内容も残るだろ?だから閻魔は好きな人のだけで満たしておきたいんだって」


何度でも繰り返し読み返して幸せな気持ちになれるようにってさ、閻魔にだって可愛い所があるんだぞ、と太子は胸を張る。アンタが威張るのはおかしいでしょうと呆れながらも、分かるようで解らない理論はさすが閻魔先輩、と言った所だなと思った。しかしまた何とも、


「はぁ…、個人の自由とはいえ、今のご時世じゃ友人が減りそうな理論ですね」
「まぁ、閻魔だし。大丈夫だろ」


即答した太子に僕も賛同する。大丈夫所か、むしろ各所に知人が多過ぎる閻魔先輩じゃなきゃ実行出来ないくらいの理論だろう。こういう時に人柄の良さって大切だなと思い、見習うべきかと真剣に考える。太子もセーラー好き以外を見習ってほしいくらいには、真剣だ。









「お待たせっ、。妹ちゃん、連絡ありがとねっ。メチャクチャ迷っちゃったぁ」


漸くやって来た話題の閻魔先輩は、鬼男の手を引いてにこやかだ。鬼男に任せていれば、もう少し早くに着いただろうにと思わずにはいられないが、先輩方特有の天真爛漫過ぎる勢いで連れ回されたに違いない鬼男の哀れさに、それは言わないでおいた。
体力的には較べようのない程に優位なはずの哀れな鬼男は、手を繋がれたままぐったりとしていたが、一つ息を吐くと、いつも通りに待たせたんだからきちんと謝れ、イカ野郎、と辛辣な台詞と共に一つ年上の其の人を叱る。なんだか慣れが見えて、同じく阿呆な先輩に振り回される我が身すら心配になる。

しかし、そう、しかしなのだ。
その声音はぞくりとする程低いが、表情はどこか優しい。

いつも通りの光景だ。













メールだっていらないんじゃないかな、と僕は思った。





 

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