06/29の日記
13:15
貴方にしか紡がない言葉
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あいらぶゆうってなんて訳す?
「外来からやって来た書物に記されたその言葉を、浮き世の文豪たちは色々に訳したみたいだよ」
なんてお前がふざけたことを言うから、僕は答えた。
「死んでくれ」
え?、と幼い表情が固まる。たかだか獄卒の一匹如きの発言に固まるなんて、冥府の大王様が聞いて呆れる。
「死んでくれ」
「ちょ、待ってよ、死ん、え?」
繰り返した答えに、顔を強ばらせる神様。平生、主様の奇行に青筋を立てる僕だが、今は表情筋の一本さえも動いている気配はない。真顔ってヤツだ。
「…じゃ、殺してやる」
鬼男くんって意外と情熱的?なんて素敵な猟奇愛、と茶化しながらも大王は困惑しているようだ。僕が応えたのではなく、平生のように仕事しろ、と示しているのだと思い込んで焦っているのだろう。しかし平生通りの筈なのに、平生にはない真顔。アンバランスが大王を困惑させているのだ。大王が奇行を起こした時も真顔が効くに違いない、と考えたが直ぐに、度々利用するには僕の生真面目な理性が崩壊しないかと心配になって案は否決された。
まだ、大王は恐々としていたので仕方無く、僕は答えに補足を加えた。その声は清水のように明瞭で、僕に一切の迷いがないことを表していた。
「アンタが僕以外を見るのも、触れるのも、愛すのも嫌だ。僕がアンタ以外を見るのも、触れるのも、愛すのも嫌だ。だから、
死んでくれ、直ぐに後を追うから」
僕は言った。大王は微笑った。
「仰せのままに」
叶わないからこそ愛おしいなんて感情を、清らかに持てる醜悪な僕で良かった。
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