世界で二番目に愛された僕の貴方への愛は世界で二番目に愚かな劣情だったのです   



 僕は、貴方によって、世界で二番目に愛されていました。僕は貴方を世界で一番に愛していました。しかし、永遠にその席を譲らない一番を僕は怨んだりなどしませんでした。当然でしょう。一番は既に永久欠番だったのですから。
 誰よりも清らかに死んでいる貴方の生を摘み取ることは、神のみにしか許されないと、貴方の理解者は言いました。浮世に本来あるはずのない澄んだ水で濡れた黄金色の髪と、翡翠色の鱗が煌く尾を少しだけ揺すりながら、貴方の理解者は言ったのです。

 太子は生まれながらにして死んでいるし、死して尚、生を剥奪されない者なのだ。それは世界の決まりごとで、神にだって穢せない

この世ならざる貴方の理解者の言の葉は、まるで託宣のようで、僕には理解し難く、また聞きたくもない声でした。抗うことなど出来ぬ託宣を耳にしながら、熱い涙が溢れるのと同時に、貴方の唯一の理解者を殺したくなった僕を貴方は許すでしょうか。愛おしい貴方さえ殺したくなった僕を貴方は許すでしょうか。貴方の一番愛した、貴方の永遠の永久欠番を、この世界の破滅を願った僕を貴方は許すのでしょうか。
 嗚呼、僕は知っているのです。貴方が僕を許すことを、僕は知っているのです。当然でしょう。僕は貴方に世界で二番目に愛されているのですから。僕の唯一望む其れが叶わないことを貴方は知っているのですから。貴方は許すことしかしないのですから。

 お願いです、お願いですお願いします。どうか死んでください。僕の手で死んでください。かわりになんだってしますから、お願いです

あの夜、貴方の麗しく白くか細い首を締め上げながら叫び続けた、貴方に愛されている証明がほしいなどという僕の我儘は、直ぐに叶えられました。僕にとって最も幸福で、最も望まないカタチで。









太子ですよ、聖徳太子です、用明様の、橘豊日大兄様の御子息です、貴方は官人でしょう、十七条の憲法を知らぬとは言わせませんよ、他にも数々の功績があ

妹子殿、確かに用明様に御子息は在らせられますが、ショウトクタイシなどと呼ばれるような方はいらっしゃいませんし、第一に、十七条の憲法は妹子殿をはじめとした我々が創りだしたものでしょう。前々より、代表者にされることを拒んでらっしゃいましたが、そこまでとは…、わかりました。妹子殿がそこまで拒まれるのでしたら致し方ありません。妹子殿の助言の通り、「ショウトクタイシ」という架空の人物の功績にしておきましょう

あの聖徳太子が、架空、だと

架空の人物の功績だなんて前代未聞ですが、そもそも仏教思想を根底にした憲法案こそ前代未聞ですからな、我々の偉業をよく思わない者に面倒を起こされた際には我々への被害を最小限に食い止められる。安い相談です。そうですね、それではここ最近の偉業全てを背負って頂きましょうか。随分の功績ですし、「ショウトクタイシ」様は用明様の御子息の御一人で、そう、大徳の地位にあり、仏教への信仰心が強い立派なお方、ということでよろしいですな。用明様は仏教に関心があるようですし、功績が増えるだけならば、悪い返事がくることもないでしょう









死して尚、貴方は世界を、人間を護るおつもりなのですね。その身の証明さえ失くしても。あの時、何故貴方を殺さなかったのか。あの時殺していれば、貴方は世界ではなく、僕の手で、いや、違う、

僕の我儘のせいで、貴方は死んだのですね。それが貴方の僕への愛の証明なのですね。僕は貴方に、



確かに、世界で二番目に愛されたのですね。

(もう愛されなくてもいいから、どうか生きた貴方に仕えさせてください)

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