書処

□Possessive Jealousy
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光が強ければ強いほど、影は色濃くなる――――。






Possessive Jealousy






シーツに沈んだ身体は、しっとりと汗を含んでいた。
艶めく胸元には、いくつもの紅い痕跡が浮かび、乱れた呼吸を整えようと上下している。
金色の髪が、布地に砂紋のように広がっている。
その美しさに魅せられたサイは、仰け反ったままのナルトの喉に、唇を這わせた。
呻くように鳴いたナルトの指が、サイの白い背中を掻き抱く。

愛のある行為と、欲に塗れただけの行為と、やる事は何も変わらないのだ。
けれど、そこにもし、少しでも愛が存在したなら、何かが違うのだろう――。

少なくとも、ナルトはそれを知っている筈だった。



身体を繋ぐ行為を求めても、ナルトはけっして断らない。
一方的な欲求ではないと、サイはそう思い込みたかった。
自分をもっと信じられたら、この苦しみから解放されるのだろうか。


昂ぶりを吐き出した後も、サイはナルトから離れようとしなかった。
今離れてしまうと、ここで終わってしまうような……そんな不安に苛まれて。
いつまでも中に留まっていれば、ナルトは辛いだけだろう。
早く楽にしてやりたいのに、腰を掴んだ手が、それを離そうとはしない。

見上げてくる天色の瞳が、サイを捕らえた瞬間に表情を変えた。

「…サイ?」

訝しさを滲ませて、掠れた声が名を呼ぶ。
見下ろした烏羽色の瞳が、途端に焦りを宿し、それはやがて哀しみを彩る。

太陽を写し取ったような、あのナルトの顔が憂いを帯びている。
年齢よりも幼く見える筈の目元も、儚げな陰影に揺らめいていて。

そんな表情をさせてしまっているのは、他でもない――自分なのだ。
自分の、この抑えきれない感情が、ナルトにそんな顔をさせてしまっている。


「ナルト…」

その後の、言葉が継げない。
言ってはいけないことを、吐き出してしまいそうだ。


行為の最中に、ナルトは何度も名前を呼ぶ。
サイ、と。
そう呼んでくれる。
泣いているのかと思うほどに歪めた口元は、確かにサイの名前を形作るけれど、「サ」と唇が開くたびに、心臓は鈍く痛むのだ。

サ、スケ…と。

いつかもしも、その名が零れ落ちたら、名前ごと唇を噛み切ってしまいたいとさえ思う。

じりじりと、仄黒い思いは燻り、煤となって肺の中まで汚していく。

彼の心の裏側に在るのが、本当に自分なのか疑念は膨らみ、気道の奥まで火傷してしまいそうだ。

腹の中が、熱い。
溶岩のように熱くドロドロした思いが内臓を焼き、呼吸器まで爛れていく。

これは嫉妬だ。
しかも憎しみを孕んだ、薄ら寒い感情。
かつてダンゾウに「感情は憎しみを作り出す」と釘を刺されたが、その時はまさか自分の中に、こんな感情が生まれるとは思ってもみなかった。

この感情は…酷く醜い。

ナルトの想いを守ってあげたい、ナルトが追い続ける繋がりを守ってあげたい、そう思った時の気持ちは、もっと純粋だったはず。
こんなに汚れてはいなかったはず。

それでも止められない。
自分の中に生まれたそれは増殖し続ける。
無理やり抑え込んでいても…こうして溢れてしまう。

「サイ…凄ェ怖い顔してるってばよ…」

ナルトの指が、頬に触れた。
優しい目で、微笑んでいる。
サイの中に疼く泥土のような嫉妬を……まるで許容するかのように、ナルトは笑った。

――ああ、ボクは、醜い。

溶かした墨に、憎しみが混じり込む。

君を独占したいのだと、叫んでしまいたくなる。

初めて生まれた「愛情」という感情が、行き場を求めて暴れている。



追えば追うほど相手は逃げる。
逃げる相手だからこそ、追い求め続ける。

恋愛の本に、そう記してあった。

ならばサスケが戻れば、君はもう彼を求めることはないのだろうか……。
だったら、彼を、必ず君の元へ連れ帰る。

それは生きていようが、屍であろうが、どちらでも構わない―――と。


ああ、ボクは醜い。
誰よりも、君の幸せを願ってきたはずなのに。
愛がこうして修羅を生む。
ボクの心が…蝕まれる。



「ごめん、ナルト……」

振り絞るように、心が叫んだ。
叫んだ言葉で心が裂けた。
裂けた部分が黒い血を流す。





光が強ければ強いほど、影は色濃くなる。
愛すれば愛するほど、独占してしまいたくなる。





生まれた感情が、憎しみを宿した。






END





(09/10/14)
サスナル前提ではありません。あくまで過去、という仮定。それでもサスケに対する嫉妬に苛まれるサイ、その黒き感情に苦しむサイ。愛ゆえにです。そんなサイと、それを享受しようとするナルト。たまにはこんな形で…。


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