書処

□爪
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「ナルト、爪が伸びてるよ」

風呂上がりのナルトが無造作に髪を拭きながらベッドに腰掛けた時、その指先を見ながらサイがそう言った。
危ないよ、切った方がいいと続けるが、ナルトは一言「今日はめんどくせぇ」とまるでシカマルの口癖のような言葉を返しただけだった。

サイはすぐに眉を顰める。
爪が伸びていると忍具を扱う時や敵と掴み合った際に、どこかに引っ掛けて爪を剥がすような怪我をしかねない。
サイの言いたいことは尤もではあるが、今夜はこのまま寝てしまいたいのだ。

「ほら、夜に爪を切るとよくねぇって言うし」
「そんなの迷信だよ」

何とか逃れようとするが、サイは引いてくれそうにない。

「朝起きたら切るってばよ…」

とは言ってみるものの、寝坊助のナルトにそんな余裕があるとは到底思えなかった。

疑いの目線を感じて居心地が悪いナルトは、サイの顔をそれ以上見ないようにして、背中を向けた。
だがその手をサイが掴んで引っ張るので、ナルトは結局のところ、サイの方へと向き直る姿勢になった。

「じゃあボクが切るからじっとしてて」

ベッドの縁に腰を下ろしながら、サイがナルトの指先を取る。
会話のさなかに用意したらしい爪切りが、サイの手の中に見えた。

「そんなの、いいってばよ!」

人に爪を切ってもらうなんて、恥ずかしい行為に他ならない。
だがそんなナルトの狼狽ぶりには我関せずと、サイはナルトの左手を自分の膝上に置いた。

「おい、サイ!」

呼び掛けと同じタイミングで、パチンと爪が弾ける音が聞こえた。

「動くと危ないよ、ナルト」

静かな声だが、有無を言わさない強さを感じて、ナルトは諦めたようにおとなしくなった。

「…痛くすんなってばよ」
「そんなに不器用じゃないよ」

フフッと余裕の笑みを浮かべ、サイは絵筆を持つような柔らかさでナルトの指を一本一本摘んでは爪切りをあてる。
その爪切りはよく見ると、ナルトの家にある爪切りとは形状が異なっていた。
ナルトが使っているのはごく一般的に木ノ葉の里で売られているタイプだが、サイが手にしているのは、爪切りというよりも工具を小さくしたようなものだった。

「その爪切り変わってんな?」
「そうかな?」
「ペンチみてぇだし」
「任務で里外に出た時に見つけたんだよ。よく切れるし爪が傷まない」

ふーん…という返事は、既に爪切りからナルトの関心が逸れたことを示していた。
サイが器用なのは分かっているし、爪切りの形にこだわりがある訳でもない。
それよりも、案外人に爪を切ってもらうという行為が心地良いと気付いたことが、ナルトにとって最大の関心事だった。

パチン、パチンと軽快な音が耳に届く。
自分で切るときはもっと不規則な音がするし、あちこちに爪が飛ぶので、要らなくなった巻物を破いて広げたりするのだが、サイは自分の膝に直接ナルトの手を置いている。
左の指をナルトの指に添え、右手で爪切りを持ち、切られて落ちた爪は、どうやらそのままサイの手のひらに納まっているらしい。

ちら、とサイの顔を見上げれば、伏せ目がちの顔が見える。
くせのほとんどない綺麗な黒髪、黒目がちな瞳、ほっそりとした鼻筋、形の整った唇。
色白のサイは見映えだけなら人形のような造りをしている。
しかし実際には女々しく見えないし、むしろ美形…イケメンの部類に入るだろう。

「ボクの顔に何かついてる?」

じっと観察するように見ていたせいか、さすがにナルトの視線を感じたようだった。

「な、何でもねぇ…」

何となく照れ臭くて、ナルトは言葉を濁した。


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