書処

□陽だまりの時間
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この時間が大切なものだと気付いたのは、いつからだっただろう。





陽だまりの時間





最近のオレは、しょっちゅうサイの自宅を訪れている。
キッカケなんて、もう忘れちまった。
きっと、どうでもいいような用事かなんかじゃなかったかと思う。

サイはその時、紙じゃなくて大きな布…キャンバスとかいうものに向かっていて、ちょうど下絵に色を塗り始めたところだった。

最初は忍のくせに随分おとなしい趣味してやがるなと思ったけど、どっかの上忍みたいに趣味がエロ本の読書だっつーよりはマシだよな。
それに、絵を描くっていうのは、サイに似合ってる…今ではそう思っている。
毒舌で無神経ヤローにしか見えなかったサイは、実はあいつなりに思い遣りもちゃんとあって、それに何よりオレと違って静かというか穏やかだった。

その絵はまだ殆どが真っ白で、下書きに近い状態だったけれど、それでもオレはその絵に惹き付けられた。
以前覗いた時は暗い色でわけのわかんねー模様みたいな絵だったのに、今描き掛けの絵は、木ノ葉の里の子供たちが遊んでいる絵だったんだ。
太陽の光が子供たちを照らしていて、みんな楽しそうに笑っているんだってばよ。
オレンジとか黄色とか、あったけー感じの色が柔らかく塗られているのを見てると、何だかこっちまで幸せな気持ちになっていった。
サイが、そんな絵を描くなんて正直言って意外で、オレは思ったままに、サイに何で子供たちの絵を描いているのか訊いたんだ。
そしたら、サイのやつ、こんな風に答えやがった。


「ボク自身はこんな子供時代を送れなかったから、せめて子供たちの楽しそうな笑顔を描き留めておきたくて。それはきっとボクの叶わなかった夢を形にしたいんだと───そういう心の表れだと思うんだ」


オレは不覚にも、泣きそうになった。
思わずサイのことを、ぎゅうぎゅう抱きしめてしまったんだってばよ。
サイが苦しいというまで、力を緩められなかったんだ。

オレの孤独とは全然種類が違う、でもサイはお日様の当たらない陰気な場所で子供時代を過ごしてきちまった。
こんなに色が生っ白いのも、きっとそのせいだってばよ。
性格のわけのわかんねーとこも、サイのせいじゃねぇんだって、改めて思った。

あの絵を見てから、サイに対する気持ちが…また変わったような気がした。
よくわかんねーけど、オレの足はサイの家へと自然に向かうようになった。
それに、完成した絵がどうしても見たかった。
サイが兄ちゃんとの絵本を完成させた時みたいに、またあんな風に笑えるといいなって、そう思ったんだってばよ。

あいつんチを訪ねる度に、オレはオススメのカップラーメンを持っていったり、新発売のカップラーメンを持っていったり、とっておきのカップラーメンを持っていったり…とにかく二人分のカップラーメンを持っていって、一緒に食ったんだ。

「ナルトはいつもカップラーメン持参だよね」
「うめーだろ?」

サイは笑ってた。
何で笑うのかよくわかんねーけど、カップラーメンがあんまり美味くて笑ったのかもしれねぇ。
とにかくオレは、よくサイの家を訪ねるようになっていた。

そして段々と、ワイワイガヤガヤなのも楽しいけど、サイと過ごすこんな穏やか時間も楽しいと思うようになったんだってばよ。
あいつが色を塗っていくのを、椅子に寝転がってずっと見ている。
時々話し掛けてくるサイと、時々そのまま居眠りしちまうオレ。
寒い季節に太陽が当たってるあったけー場所がある…そんな陽だまりにいるような、時間だった。


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