+徒然小説+

□絶対温度。(おお振り)
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『三橋、ダウン終わったらちょっといいか?』
『う、うん』
あいつはまた肩をびくっと震わせる。一種の反射的動作なんだろうが、周りも俺もそれで何時も気を遣っている。
三橋が安心して投げられるように。皆と打ち解けられるように。
だから三星との試合も皆にハッパをかけて全力で向かった。
まだ、何か足りないのか?どうすればなんて考えられるほど、俺は器用じゃない。
『な、なに?阿部君』
成るべく三橋の顔を見据えないようにして自然に目線を合わせる様にする。自分でも目付きが悪いのは承知しているし。
『…今日夕飯食ったら、話がしたいんだけど』
『で、でも俺んち学校から結構あるし・・・母さんと御飯食べるのも結構遅い時間だし』
俺は鞄の中の財布を上から確かめて、三橋の腕をぐっと掴んだ。
『じゃあ、俺が奢ってやる!練習して腹減っただろ。コンビニで何か買って、あそこの公園で食おう』
途端三橋の表情が和らいだ。眉尻が下がって緊張が解けたような、そんな表情。
『決まったらさっさと着替えて行こう。他の奴らに見つかっても、そいつらの分までは俺も金持ってないから』
『うん!!』
その表情につられてあの時のように手を掴むと、ほんの少し手が暖かかった。





公園の脇のコンビニに辿り着くと、おにぎり2つとペットボトルのアクエリアスを取ってレジへ並ぶ。ふと背後に人の気配を感じ振り向くと、三橋がサンドイッチとおにぎり、お茶を持って立っていた。
ピッチャーの割には華奢な体つきのくせに結構食うんだな・・・サンドイッチだってBOXだぜ。
『・・・レ、レジ一緒に・・・』
そうか、俺が奢るって言ったんだっけ。
『悪い、もう少しで忘れる所だった』
苦笑して三橋から持っている物を受け取ると、三橋は目を見開いて俺を見ていた。
『い、いや悪かったって・・・な?』
そう言っても、三橋はまだぼうっとしているみたいだ。俺の目を見たまま動かない。
やっぱり、ピッチャーは変わってる。
ため息ひとつついて、俺は財布に手を伸ばした。
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