+徒然小説+

□かのために(幻水3)
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突然、歴史上の「炎の英雄」が自分と同化する。
儀式によって当たり前のように、俺の現実に溶け込まれて。
俺の未来が「炎の英雄」の名で紡がれて行くのだろうか。
紋章がしゅうっと音を発てて溶けこんだ、そんな気がした。
鉄頭のあいつ、クリスとそこで初めて会った男、ゲドが俺の手の甲を吸い寄せられるように眺める。
違和感は無かった。しかし心底に流れて行くたとえようもない感覚。
部屋から出た途端に、力が失われて行くのが分かった。
暖かい感触が気持ち良い。そのうねりに誘われてまた深い淵に辿り着こうとした時。
突然それを遮るかのように、冷たい感触が俺の意識を引き摺り戻した。
「…大丈夫か」 
眉根を寄せた彫りの深い顔が目の前にあるのに気がつき、俺は一度も呼んでいないその男の名前を呼んだ。
「…ゲドさんでしたっけ…炎の英雄の友達だったんですね」
「……ああ。そうだ」 
「あなたも真の紋章を持っていた」
紋章の化身との戦いの合間に垣間見た、その威力を思い出して思わず背筋が寒くなる。
俺の引き継いだ紋章も、あんな激しい気性を持っているのだろうか。
あんな風に全てを飲み込むのだろうか。
まだ使っていない右手の紋章がうねるような感覚を持っている。
思わずぐっと右手を握り締めると、ゲドが俺の手に骨ばった手を添えた。
「…客だ」
身体を支え前方を睨む様に見据えると、仮面を被った男と魔術師らしき女が暗がりから姿を現す。
傍に居たクリスとゲドが息を飲むのが分かった。
「その紋章を渡してもらいましょう」
仮面の男の視線を受けとると、俺は無意識に剣を抜いていた。
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