+徒然小説+

□たえなき想い(幻水3)
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抜けるような晴天の日。
俺が真の炎の紋章を宿してから…何日がか過ぎて。
日課である探索の後、サポートにまわっていたゴロウに引きずられる様に離れの風呂へ向かった。
「ふう…」
こうして熱いお湯に浸かって、そっと目を閉じて。

音のない世界で。

何も考えたくなかった。

青い空を見れば見るほど、自分の奥底に仕舞った正反対の色に染まった思いを引きずり起こしてしまうようで。
ふと手を見ると、ほのかに紅く染まった手先と柔らかくなっている皮膚が目に止まった。
「浸かり過ぎかな…」
俺は濡れた髪をを軽く絞り、湯船から出た。





「…気持ちいいなぁ〜」
湯船から出て、そのまま船の甲板へ向かう。
強めの風が頬を撫でていくが、まだ濡れたままの髪は重いまま棚引かなかった。
不意に肩に重みが増して、そっと見ると、何時の間にか厚めのタオルが掛けられている。
そして。
「…風邪をひくぞ」
「ゲドさん…!びっくりしました」
俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。
そんな俺の仕草がかなり可笑しかったらしい。
「…ふ。ジャックを探しにきたら、お前が立っていた」
「ジャックさん…ですか?」
「ああ、あいつもここが好きらしい。よくここで1人で立っているのを見かけるとルースが言っていた」
ルースはここで良く洗濯しているからな、とゲドは呟く。
確かにそうかもしれない。今もルースの干したシーツが風に揺れている。
それが揺れる様が何処となく儚げで、俺は溜息をついた。
「そうなんですか・・・」
「な〜んだ?少年。残念だったか?」
ふと振り返ると、何時の間にかエースがゲドの傍らに立っていた。
「エ、エースさん・・・」
全く気配を感じさせないエースに驚いて、俺は二の句が告げなかった。
「くっく。可愛いね〜、目を白黒させちゃって」
思わずむっとエースを睨むと、おお怖いといって両手を空へ挙げる。
「これ以上お邪魔すると子猫ちゃんが怖いし、俺は外で待ってますよ」
そんな俺の前に立ちはだかる様に、ゲドはエースと向き合う形で立った。
「ジャックはどうした」
「ジャックは弓の具合が悪かったらしくて、アイラと一緒に手入れをしていたようですよ」
「…そうか。すまないがお前達は先へ行っててくれ。俺は後で追いかける」
ゲドはそう言ってくるりとエースに背を向ける。
エースはこれはこれは…と頭をかいた。
そしてぽつりと。


「大将・・・可愛いもの好きなんですね…意外に」


「…………何か言ったか」
その台詞と視線を同時に受けとめたエースは、ひょっと首を竦めて俺の方を見た。
「じゃあ訂正します。大将、猫好きですからね」
???ゲドって猫…好きなのか。そういえば、コロクの散歩の時あまり興味を示さなかったな。
「ゲドさんって猫、好きなんですか」
その台詞に、不意をつかれたらしい。寄せていた眉根を解いて、ゲドはじっと俺の方を見つめて頷いた。
「ああ、そうだな…」
その様子を見ていたエースはやれやれとばかりに荷物を抱え直した。
「じゃあ、大将先に行ってますよ。ちょっとばかり準備もあるんで」
「ああ、頼む」
遠ざかる足音と共に再び甲板に静寂が訪れた。
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