+徒然小説+

□予期せぬ温もり(幻水3)
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「ゲドさん!一緒に寝ましょう」
毛布をくるくる巻いた物を抱いてヒューゴはゲドの前に立ちはだかった。
「・・・俺のベッドは狭いんだ。自分の部屋で寝ろ」
ひょっと首根っこを捕まえようとすると、ヒューゴはするりとその動きをかわした。
もう何度このやり取りをしたのだろうか。自分から来ても「お願い」がなかなか成功しないヒューゴにとって、その数は計り知れない。
「もうその手は食わないもーん」
「あっ!ヒューゴ、待・・・」
気がついたらヒューゴはすっかりベッドの上。
丸めた毛布を抱えてこちらを見る様は、どう見ても猫耳と尻尾が見える。
「だってこれじゃ眠れないんだもん」
丸めた毛布を抱えたまま、ヒューゴはゲドを見つめた。その姿、さながら迷子の子猫ちゃん。しゅんと下を向き、背筋も丸くなる。
「何が駄目なんだ」
ゲドはその毛布をひょいとヒューゴの手から取り上げた。
すっかり巻物状態になっているものを元の状態に戻し、ゲドは眉根を寄せてヒューゴを見る。
「此れの何処が悪い?確かに丸めているから毛足は悪くなっているようだが」
「・・・あったかくないんだもん」
この辺りは確かに冷える。グラスランドの方と比べると、底冷えさえ感じるような気候だった。
「あったかくないって・・・こうすればいいだろう」
ゲドはヒューゴの体にくるくると毛布を巻きつけてやる。
「・・・いつも一緒に寝ていたんだもん」
そうか。ゲドはヒューゴに気づかれぬよう自分に対して相づちを打った。
未だヒューゴも子供だ。今まではきっとあのルシアに添い寝してもらっていたんだろう。
「母さんがもうお前も炎の英雄になったんだから、一人前だ。もうそろそろ一人で寝なさいって言うんだ」
でも、とヒューゴは上目遣いにゲドを見た。その目は心なしか少し潤んでいる。
「何だか寒いんだ・・・よく分からないけど」
ゲドはくしゃくしゃとヒューゴのぼさぼさの金髪をかき混ぜた。
そして聞こえるように溜息を1つ。
「・・・・・・・・・・・俺が隣にいれば良いんだな」
そういってヒューゴの肩を引き寄せ、背後にある重い木製の扉をバタンと閉めると、その音にビクッとヒューゴは身を震わせた。
自分から来たのにとゲドは笑う。しかし緊張したように頬を紅潮させているヒューゴを見て、ゲドは次第に吹っ切れないものが心の中で渦巻いてきた。
今まで何度もヒューゴは自分の部屋を夜分訪れてきていた。その度に阻んできたのはもちろんヒューゴが嫌いなのではなく、むしろその逆から来る行為なのは少しづつゲドも自覚していた。
目の前にいるヒューゴはゲドにとって既に守るべき英雄という事と共に、自分に欠けていた物をゆっくりと満たしていく存在であることだと。
傷つけないと誓った。なのに己で破るわけにもいくまい。
頭を抱えたいのは俺の方だ。ゲドは自分の気持ちを抑えようと、ヒューゴの髪をさらに弄くり回した。
「わあ!ゲドさん遊ばないでくださいよ!」
俺は犬より猫の方が好みだ。
そして傍らのヒューゴには・・・やっぱり耳としっぽが見える。
そうだ、猫だと思えば・・・何とかなるだろう。
そう思い直して、ゲドはヒューゴの隣に腰をかけた。
一旦ヒューゴを床へ降りる様に促して、シーツの端を持ち轢きなおす。
そうだ、いくら2人で寝ると言っても枕は一個しかない。
「ヒューゴ、枕は使うか?」
そう聞くと、ヒューゴはふるふると頭を降った。
「・・・・・・俺はゲドさんがいれば、大丈夫だよ」
俺を見上げてさらに顔を紅潮させている。俺は何か変な事でも言ったか?
「そうか・・・では俺が使うぞ」
ゲドは枕を左側に置き、先に横たわる。
先に横になった方がこいつも入りやすいだろう。
まあ・・・自分から来た以上、遠慮して部屋に帰るなんてことはまずなさそうだが。
ヒューゴが寝台の明かりを消して、もそもそと毛布をめくり上げた。
そしてするりと俺の横に潜り込む。
カーテンを通して入り込んだ月明かりに照らされて、目の前には少し瞼を瞑りかけた幼い顔。
ヒューゴの体温のせいか、ゲドの眠りも訪れるのがいつもよりも早い様だ。
なるほどヒューゴが「寒い」と言ったのも理解できる。
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