+徒然小説+

□燈台(幻水3)
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今日こそは謝ろう。
ヒューゴは拳を固めて、ぐっと腕に力を入れた。
でも、あれはあの人がいつもいきなりだから。
ビックリして、つい何時も突っぱねてしまうのだ。
もう、何回謝る機を逃しただろう・・・。
ヒューゴはぐるりと城の周りを散策し、通りすがる人一人一人に問いかけた。
しかし、外で会った誰一人として彼を見かけたという者はいなかった。
ヒューゴは途方に暮れて、今来た道を引き返そうと足を止めた時。
「やあ。ヒューゴ。どうしたんですか?」
目の前に現れた思わぬシルエットに、ヒューゴはびくりと息を止めた。
「ササライさん・・・」
何時までもびくびくしているヒューゴを見て、ササライはおやおやと苦笑した。
「別に取って食いはしませんよ」
「だってササライさんって、気配がないんです。すごく静かな・・・優しい感じの。
だから周りの自然にとけ込んでしまうみたいなんですね、ちょっとビックリしました」
本当はササライと向かい合うと、何だか自分の考えていることが見透かされていそうで、つい落ち着かなくなるのである。
その視線があまりにも真っ直ぐすぎて。それでいて、遠くて触れられない。
それはあの人と同じだな・・・とヒューゴはぼんやり思った。
「ふふ、探し人と会えませんでしたか?」
あまりにも簡単に言い当てられて、ヒューゴは更にドキマギした。
「・・・・・・・・・その通りです」
ササライはヒューゴをじっと見つめると、瞳を細めて柔らかく笑った。
「あちこち探しましたか?」
「はい、酒場とレストラン、牧場、図書室、倉庫・・・さっきはお風呂まで行って・・・」
ヒューゴはそのときの事を思い出して頭をさすった。
早く見つけたい一心で突撃してしまったのだ。
メルとベル(そしてブランキー)が入ったお風呂に。
当然、ゴロウの制止を振り切って湯船に突撃したヒューゴと、また失礼な台詞をはいたブランキーはメルの「お仕置き」を受けたのである。
ブランキーでバシバシ叩かれたヒューゴは、その場面を思い出してまた痛む頭を撫でた。
「それは大変でしたね。ではヒューゴ、『燈台もと暗し』って言葉を知っていますか」
「トウダイ・・・って何?」
「ああ、カラヤには海がないんですね。燈台とは早く言えば目印のような物です。大きな明るい塔で、暗い海を渡る渡航者にとってはとても大切な物です。で、その燈台は海を照らす為に海に向けて光を発していますから、燈台の立っている場所…つまり足元は照らせない。つまり、すぐ近くにあるものほど見えない…気がつかないということですよ」
ヒューゴはその言葉を頭の中に巡らせた。カチカチと言葉の意味を今の状況に当てはめてゆく。
そして、目を見開いてぴょんと体を揺らした。
「ササライさん!俺、戻ってみます。もしかしたら…!!」
「うん、そのほうが良いと思うよ、ヒューゴ。きっと…待っているよ、彼の方もね」
その言葉に一瞬ヒューゴが後ずさる。
「お、お、おれ、その人の事…ササライさんに話しましたかっ?!」
顔を真っ赤に染めて口早に捲し立てるヒューゴに、ササライはにっこりと笑う。
「いいえ、何も聞いていませんよ」
………………… ヒューゴは得体の知れない、ぞくりとした感触が背中を這い登ってくるのを感じた。
「じゃ、じゃあ、ササライさん有難うございました!!」
一目散に(本当は怖くなって)城へ走って行くヒューゴを見て、ササライはくすりと笑みを洩らした。
「…可愛いですね。だから、ついついからかいたくなってしまう」
本当は知っていたのだ、いつもヒューゴの傍には見守る姿があることを。
その彼もついさっき、ササライに聞いて来たのだ。
英雄どのを見かけませんでしたかと。
「ふふ、両思いなんですね」
勝手に思いを巡らせて、ササライは今頃会っている2人を想像した。
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