+徒然小説+

□合い言葉(おお振り)
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「おい、廉!」
あいつはいつも通りびくっと肩を震わせると、ゆっくりとこちらを振り返った。
「あ、あ、阿部君!?なんで俺の名前…」
驚かそうと思ったのも事実だけど、何だかあまりにびくびくしているので、かえって溜め息が漏れてしまう。
「どうしたんだよ。名前なんて連絡網に載ってるじゃん。それに三年間一緒にバッテリー組むんだぜ。もうちょっと親近感あっても良いと思うんだけど」
その言葉に三橋はほうっと息を吐いて、居心地悪そうに俺を見た。
「そ、そう…ななんか…名前で呼ばれると、怒られるような気がして」
「はあ!?」
「今まで呼ばれたとき、そうだったから。叶君とか・・・大きい声で、みんなの前で『廉っ!』とか叫ぶんだ。あと母さんとか・・・・ううう」
こいつまーたぐるぐるしてる。
しかし、母さんは分かるけど、何で叶の名前がでて他の奴の名前がでないんだ?
叶以外は名前で呼んだ事ないのか?
「た、確か叶君だけ・・・他の皆は名字しか呼んでくれなかった。か、叶君は・・・小さい頃名前で呼んでたけど、でも叶君も大きくなったらたまにしか・・・呼んだ事、ないよ」
「たまにって・・・どういうときだよ」
「例えば・・・二人でいるときに、睨み付けて『廉!』って呼ぶ・・・んだ。拳握って、顔真っ赤にして・・・お、俺がびくっとすると、叶君はわりいって言って、そっぽ向いてた。で気まずくなっちゃって・・・。何度かあったけど、皆の前で『あの時、な、何を言いたかったの・・・』と聞いても絶対言ってくれなかった。結局なんだったんだろう。昔は気軽に『修ちゃん』『廉』って呼んでたの・・・に。お、俺もそのうち『叶くん』って呼ぶようになってた・・・」
おいおい、それって。
どう見たって、奴は三橋を意識してるとしか思えないぜ。
話聞いただけでもそれは・・・奴が三橋を・・・と誰でも考えそうなシチュエーションだ。
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