+徒然小説+

□ある晴れた土曜の朝(おお振り)
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「おう!タカヤ」
「・・・ちわす」
何で。よりによってこんな天気のいい、気持ちのいい、昼下がりに。
こいつに会わなくちゃならないんだ?!
俺の隣に並んでいた三橋がびくっとして、俺の後ろに隠れた。
榛名の視線は俺を通り越して、俺の肩当たりを見ている。
つまり、こいつがターゲットか。
「今日は二人でお出かけか?天気もいいしな〜、俺も混ぜてほしいなあ」
「・・・俺たちそろそろ行くんで。ほら!行くぞ」
「そんなつれない事言うなよ、タカヤ。ほらそいつだって怖がってるじゃん」
「三橋が怖いのはあんたですよ」
その言葉に榛名はニッと笑った。
「そうかそうか〜ミハシって言うんだ。宜しく、武蔵野第一の榛名だ」
手を差し出したって、三橋は怖がって手を出さないさ。
と思って後ろを振り向くと。
目が何時もの数倍潤んでて、気のせいかメチャクチャ光ってる様な・・・。
「う、うお・・・榛名さんだ・・・」
何だよ、こいつ。やけに楽しそうじゃないか。
「よっ、宜しく!ミハシくん♪」
おずおずと差し出された手をぐっと握って、榛名はニカっと笑った。
そしてそのままぐっと三橋を俺の背後から引き抜いた。
「な、なにするんすか!危ない」
「ン?なんか猫っ毛だな〜。ほらぐしゃぐしゃになってるぜ」
いつもなら、俺に触られてもびくっとするくせに。
何でそんなに嬉しそうなんだよ、三橋。
「エへ・・・は、榛名さんって凄いんですね。あんな球、俺も投げてみたい・・・」
うんうん、と満足そうに榛名が頷く。
「お前だって凄いみたいだな。西浦のミハシってコントロール抜群だって噂を聞いたって、この間秋丸が言ってたぜ」
そう言われて、更に三橋の頬が赤く染まる。
何だよ、じゃあこいつ三橋の名前も知ってたんじゃないか。
ぎっと睨むと、榛名はウインクを返してきた。
こ、こいつ確信犯だ・・・!!
「じゃあ横の騎士が怖い顔してるんで、俺はそろそろ退散するぜ。またな。今度は二人っきりで教えてやるよ、色々とな」
「はい!は、榛名さん!!」
「あ、あと俺がお前と会ったの内緒な。今度ちゃんと対戦相手(ライバル)としてきちっと挨拶したいし・・・今度球場で会ったらもう一度挨拶しようぜ」
な、とあいつはぐりぐりっと三橋の髪を弄んで、俺に笑いを投げゆっくりと背を向けた。
あんの野郎・・・・・余裕じゃねえか!!
「三橋・・・お前怖くなかったのか?前榛名の話をするとびくっとしてたじゃねえか」
「う、うん・・・でもこの震えは怖いのもあるけど・・・嬉しいんだ」
「嬉しい・・・?!」
 
「お、俺だって速い球は憧れだし、そして背の高さや大きい手も俺にあったらな・・・って思う」
「そうか?俺は三橋の方がいいと思うけど」
「な、何で?!」
がばっと目を見開かれ、俺の方がたじろぐ。
「い、いや、三橋の方がコントロール9分割だし。俺の言う事も耳に入れてくれたり、笑う様になったり、一緒に飯食ったりできるし、思わずじっと見ちゃったり・・・」
そこまで言って俺はかあっと顔が熱くなるのを感じた。
ちらっと横目でみると、三橋が不思議そうな目で俺を見ている。
「そ、それって、もしかして阿部くん・・・」
「何だよ」





こりゃ流石に鈍い三橋でも分かったのか?
ぐっと俺が息をのんで身を引くと、三橋は更にずずっと顔を突き出した。
「お、俺の事・・・」
そうだよ、俺はお前を・・・いい加減に分かれよ。
「俺の事、バッテリーと認めてくれた?!」
そ・・・・・・・そんなんは前からとっくに認めてるっつーの!!
もう、鈍感ニブチンだぜ。
「お、俺もバッテリーになれて嬉しい。やっぱり畠くんと違って俺が阿部くんを好きだからかなあ」
「い、今なんて言った?」
俺の勢いに押されて、三橋がぎゅっと目を瞑った。
「ご、ごめんなさい・・・調子に乗っちゃって」
「だから今なんて・・・」
「う・・・俺が阿部くんを、す、好きだって言った」
何で。何でこいつはあっさり言えるんだ。
多分深くは考えてねーんだろう。まあいいさ。
「阿部くんは・・・お、俺の事・・・好き?」
「さーな」


榛名にあんな態度取りやがって。
簡単に俺に好きって言って。
悔しいから暫くは言ってやらねえ。

前とは違う意味を込めた「好き」を。
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