+徒然小説+

□好奇心(おお振り)
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「お疲れ〜」
「じゃあ、また明日」
様々な声が交差する練習後の部室。
「三橋!今日の投球数多かったから、ちゃんと風呂でマッサージしとけよ。それから夜更かしはするな。どうしてもみたいテレビがあったらDVDに取っとけ」
「う、うん!」
「ホンット阿部は世話女房だよな〜」
その声にムッと来て、俺は栄口の肩に手を伸ばす。
「ではお前の肩も揉んでやろうか〜」
「遠慮します。何か手付きがアヤシイから」
そんなやり取りをしていると、横から三橋が立ち上がった。
「じゃあ、お疲れ様・・・でした。またね、阿部くん、栄口くん」
しまった!栄口に構っているうちに・・・。帰りながら三橋に言う事が未だ沢山あるんだ!
あれも注意してほしいし、これもやってもらわないと。
俺は急いでユニフォームをたたんでバックに押し込んだ。スパイクの泥を落とし、ロッカーの隅へ仕舞う。
「あまり構い過ぎると旦那に逃げられるよ〜阿部っ」
「・・・その時は覚悟しろよ」
おお怖っと言って首を竦めた栄口に手を振って、俺は校門目掛けて早足で歩いた。
夕日もほぼ沈みかけている。
そのオレンジ色の光が微かに差し込む木の下に人影があることに、俺は大分近づいてから気がついた。


「・・・よう、西浦キャッチ」
「三星の・・・叶か?」


正直驚いた。だって今は・・・午後6時半だぜ?三星ってそんなに近かった記憶はない。
「お前・・・今日ガッコ出たのか?」
頭を掻きながら叶はん、と返事をした。
「サボった。じゃなきゃこの時間に来れねえもん」
叶は辺りを見回した。が、他に人の気配はない。
「三橋か?さっき俺より早く部室出たからもういないと思うぜ」
その言葉に叶は首を振った。俺から視線を外さずに。
「いや、今日はお前に会いに来た」
「俺に・・・?」
そう呟いた途端、叶はぐっと俺の腕を掴んだ。
思わず顎を引くと、叶は更に顔を近づけてくる。
「何なんだお前!俺に何か文句があるのかよ」
その言葉で叶の腕から力が抜けて、俺の腕から手が滑り落ちた。
「悪い・・・お前に一つだけ頼み事があったから、ずっと待ってた」
その姿があまりにも力無さげで、勢いを殺がれてしまう。
「何だよ、頼みって」
叶はぐっと手を握り締めた。薄暗くなり始めた今でも判る位に力を込めて。

「・・・キャッチをしてほしいんだ」

え?そんな事普通他校のヤツには頼まねえぜ!だって手の内知れるじゃん。
叶の目が俺から外れない。圧迫感を感じて俺は息を大きく吐いた。
「・・・判った。でも他の奴らに知れると面倒だから、あっちでやろうぜ」
校庭の隅の方を指し示すと、叶はOKと言って頷いた。
「あ、でも俺何も持ってきて無いや。グラブとか借りてもいい?」
その言葉に俺は思わず苦笑した。
投げるつもりで来たのに何で持ってきてないんだよ。
全くピッチャーってヤツは。
三星のキャッチャー・・・畠も苦労してんだろうな。
今日もこんないい天気だったんだから、練習もあっただろう。夏大だって出るんだろうし。
慌てているであろう畠を想像して、俺はまた笑ってしまった。
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